どうか 振り向かないでね 5 | ナノ

「今すぐ返事しろなんて言わねぇよ…だから…」

そこで不意に顔を横に逸らしかけたので慌てて右手を差し出してほっぺたをつねり、こっちの方に向け直させた。

「俺も好きだよシズちゃんが。いや、好きになりたいシズちゃんのこともっともっと…」

自然と口から言葉が出ていた。
目の前のシズちゃんの表情が一瞬にして変わり、かなりの衝撃を受けているように見えた。もっとも頬はつねったままだったので、かなり珍妙なことになってはいたけれど。
吹き出したい気持ちを抑えて話を続けた。

「まだよくわかんないんだけどさ、真剣に考えてみたいっていうか。あぁでもこの性格を変えろとかそういう我侭は受けつけないからね。お互いの立ち位置はこのままで…」

正直シズちゃんのことが好きとか嫌いとかそういうのはよくわからなかった。
趣味にするぐらい人間のことは好きと言い切れるけど、誰か特定の個人を好きになることなど考えたことは無かった。
勿論初恋なんてものもない。普通であれば通る道なのだろうが、自分が変わり者なのは自覚しているから人と違うなどということはどうでもよかった。
だけど今になって、そういうものの一つでも経験していればよかったと思った。どんな経験であろうとそこから学ぶことは多い。例えそれが失敗であろうとも。
そういうことで、現時点の俺は恋とか好きだとかそういうのはわからない。
ただ一つ言えるのは、これまでと違った視点でシズちゃんのことが嫌いであるということ。
そして惹かれているということ。
嫌いだけど理解したい、嫌悪を好意に変えたいということだった。
しかしそれにはこれまでの関係を続けたままでという大前提が欲しかった。
いきなりすっ飛ばして、シズちゃんが俺のことが好きで好きでしょうがないというところから好きになるというのは難しいように思えた。
もうそれは俺にとってシズちゃんがシズちゃんではないのだ。
シズちゃんにとって陵辱される前の俺と今の俺が違うように。

「そりゃ、無理だな」
「え?」

あっと思った瞬間にはすべて遅かった。
つねっていた手首を掴まれシズちゃんの顔が近づいてきたなと思ったら、半開きの口に柔らかい感触が訪れた。
キスをされたのだと気がつくのに数秒を要した。
されたことが信じられなくて目をパチクリさせていると、とんでもないことを告げられた。

「好きだって返事されて待てるほど紳士なんかじゃねぇよ俺は。むしろ野獣だ」
「…ッ、なんだよそれ」

いたって冷静に返したつもりだったが、心臓がバクバクとありえない早さで高鳴っていた。心なしか頬も熱くなっているような気がする。
ただキスをされただけなのに、どうしてこんなことに陥っているのか理解できなかった。
頭だけが感情に置いていかれているようだった。
いつものようなからかいの言葉が全く思いつかない。こんなに動揺してしまう自分が信じられなかった。
キスなんて序の口だ。もっと酷いことをされているはずなのにあまり記憶が無いせいか、今のキスのほうがよっぽど刺激的に思えるぐらいだった。

「あ」
「…不謹慎だよな。悪い」

どうしてか妙にいたたまれない気分になって視線を下に逸らしたら、ちょうどよくシズちゃんの股間の部分が目に入ってしまった。
見られたことに気がついて礼を言われたが、なぜか目が釘づけになってしまった。
(え…なんかありえないぐらいのもんがついてるよね、これ人間か?それなりに細くて体つきがガッチリした奴はデカイって聞いたことあったけど、それにしてもこれは規格外だろ?)

「おい臨也、お前すげえ顔してんぞ?」
「へ、えぇッ!?あぁ、ゴメンちょっとびっくりして…はは…」

虚しいくらい乾いた笑いが浴室内に響き渡って、あまりの恥ずかしさに穴があったらすぐにでもダイブしたい気分だった。
一瞬考えてしまったのだ。アレが自分の中におさまるところを。
自分では知らない疼きがじわじわとわきあがっていることに、驚きを隠せなかった。
本能的に興味があるのだと気がついてしまったのだ。
陵辱されて体に染みこまされてしまったものが反応しているのだと。

(やっぱり俺すげぇ淫乱になっちゃってるんじゃないの?おかしいよね、あのシズちゃんだよ?そこらの男に反応するよりはいいけど、いくらなんでも心境が変わりすぎだよ)

自分のことなのにわからなくなってきて面食らっていると、追い討ちをかけるように声を掛けられた。

「とりあえずそろそろ体洗うっていうか…中のもん掻き出したほうがいいだろ?やってやるから暴れずにそのまま体をうつぶせにしてくれないか」
「中のものって……マジ?」

湯水に混じってとろとろと太股の間から少しずつこぼれて外に流れ出ていた液体のことに気がついて、顔色を明らかに変えた。
陵辱された時に散々腹いっぱいになるまで出された精液を、シズちゃんが手伝って掻き出してくれるというのだ。そんなの嫌に決まっているというか、考えたくなかった。

「いや、そ、それはいいから!俺一人でできるって!これだけは、ホント気にしなくていいから!」

嫌な予感が胸の中を渦巻いていた。さっきシズちゃんのあれを見てしまってから起こりはじめた疼きが、一層大きく拡がっていた。
恥ずかしいとかそういうことじゃなくて、別の意味でヤバイと感じた。
痴態を晒してしまうのはとても危険だと、頭の中で警報が鳴っているようだった。
シズちゃん自身に関係ないと言われようが、とにかく完全に変わってしまった体を見せるのが怖かった。

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