「しかし一日も経たないうちに片付けるとは、さすが情報屋というか」 「仕事だけは早いですから。でも他にすることが無くなって暇っていうか…こうやって四木さんをからかうしかないんですけど」 四木さんの愛人と偽って粟楠会に入り込んでから、もう三日は経っていた。 ヤクザの組といっても部下は何十人も居て、拠点も散らばっていたので多少は時間が掛かることが予想されたが、事はあっさりと片付いてしまった。 普段は絶対に俺なんかには教えてくれない内部事情を調べたら、すぐに目当てに辿り着いたのだ。当然情報屋の俺でしか動けないような内容で、調べたのだが。 「まさか色仕掛けとか使ったんじゃねえのか?」 「あはは、っ色仕掛けってまた古い言葉ですね。そんなわけないじゃないですか?俺は四木さん一筋ですよ」 言いながら、舌を出してぺろりと握っていたモノの先端を舐め取ってニッコリと微笑んだ。もうさっきから何度もこうしてフェラを繰り返しているが、一度もこっちにさわってくる気配はなかった。 いくら俺が誘っても必要以上は手を出してこない、ほんとうに出来た人間なんだなと尊敬の眼差しで見つめた。 媚薬の効果とはいえ一日の生活の中でほとんどの時間を性欲で満たしている俺とは、全然違った。随分と正気を保つのにも慣れてきたが、まだ完全に抜けきってはいないのだ。 ほんとうに厄介な話だった。 「きっついおしおきされて、体に覚えこまされましたから…ねえ?」 「嘘をつけ、懲りない奴だなお前は。ったく上の命令じゃねけりゃとっくに投げ出してるよ。こんな奔放なのは俺じゃ管理しきれねえんだよ」 愚痴るように吐き捨てる四木さんがおかしくて、笑いを漏らした。しかし話の間も手を休めることはない。なんだかこうしているのが当たり前なぐらいに、この行為に馴染んでしまっていたのだ。 淫乱だとか罵られても、全くおかしくない光景だった。 「でもおかしいんですよね。俺を脅してきたあいつの居所だけが、どうしても掴めなくて。なんか四木さん隠してません?」 「そりゃ知らねえな。こっちとしてもさっさと見つけて出て行ってもらいたいんだけどな」 ポケットから煙草を取り出して、火をつけながらため息をついた。それが演技なのかどうかは読めなかったが、俺にうんざりしているのは事実なようだった。 「いつも突きとめる直前で邪魔が入ってるみたいで、正直そろそろ俺も本気出そうかなって思ってるんですけどね」 そこまで言って、硬く大きくなったペニスを口に含んで顔を前後に揺り動かしはじめた。 「ふ、んぅ、っ…む、ぅ、ん…」 「そうか…じゃあ臨也お前一度自宅にでも戻るか?あれから三日も経ってりゃ噂もすっかり立ち消えてるだろうし、必要な道具とか持ってきたいんだろ?」 その問いかけには答えずに、必死に絶頂に向かって手と唇を使って導いていく。感触的にもあと少し、というところで口から取り出すと白濁液が勢い良く顔目がけて飛び散ってきた。 コントロールしたので唇の周辺にしかかかっていなかったので、指で掬い取って舐めた。 「はっ…ッ、いいんですか?俺を放したら手当たり次第そこら中の男とヤッちゃうかもしれないですよ?」 「俺一筋だってさっき言ったばかりじゃねえか」 四木さんのペニスに舌を這わしてぴちゃぴちゃとわざとらしく水音を立てて精液を舐めながら、首を傾げた。綺麗にした後最後に中心にキスをして、やっとそこから離れた。 それを煙草を味わいながら黙って見ていたが、なにかを閃いたように肩を揺らすと、いやらしい笑いをして口の端を歪めた。 「そうだな浮気しねえようにしてから、帰してやるよ」 「ったく四木さんもひっどいよねー…」 ぶつぶつと文句を呟きながら、重い足取りで何日か振りに自宅のマンションへ歩いていた。 人気の無い路地裏まで車で送ってもらったので、ほんの数分歩くだけだったのだが、とてつもなく長い時間のように感じられていた。 深夜とまでは言えないが随分と夜も深い時間で人影がまばらだったのが、幸いしていた。 とりあえずゆっくりと歩みを進めて、やっとマンションのエントランスに足を踏み入れた瞬間、後悔した。 「え?マジで…シズちゃん?」 すっかりその可能性は頭の中から消えていて、入り口で立ち尽くしてしまった。これでも一応噂を嗅ぎつけた男達が待ち構えているのを想定していたというのに、相手が違いすぎた。 護身用に貰ったナイフを構える気すら失せてしまっていた。 「おい手前随分遅いじゃねえか。っていうかここ数日どこに行ってたんだ?」 「な、なに?もしかしてここ何日か俺の家に通ってたとか言うんじゃないよね…はは、シズちゃんが?そんなに俺を殺したいって?」 混乱する胸の内を悟られないように言葉を次々と吐き出していたが、じっとこっちを見つめるばかりで何も反応を示さなかった。わけがわからなすぎて、本当に恐ろしいと思った。 しかしこんなところで立ち話をしている場合でもなかったので、すぐに部屋番号を押して扉を開けた。あわよくばそのまま逃げられるないかなと考えたのだが、無理だった。 「話があんだよ」 「へえ、そう?俺は全く無いんだけどさ」 すぐに後ろからついてきたので、逆にマンションの中に引き入れてしまう結果になってしまった。しかも部屋までついてきそうな勢いに、困ってしまった。 いつもだったら別になんともないんだが、今日は特にマズイのはわかりきっていた。ただでさえ体が辛いというのに。 「うるせえ、いいから行くぞ」 「ちょ、ちょっと腕ひっぱらないで…っ、い、痛いって…!」 そういえばこの間玄関の前まで送ってもらったことを思い出して、しまったと思った。強引に右腕を掴まれながら、エレベーターに乗り込もうとするシズちゃんを止める術はなかった。 そのまま部屋の前まで引っ張られたところで、この間最後にキスをして別れたことまでも鮮明に蘇ってきていた。 扉を開けろと促されて、渋々とカードキーを取り出しながらとりあえず尋ねてみた。 「ねえ、もしかしてこの間のキスのこと怒ってるっていうの?あれぐらいで何日も通ったりするわけ?冗談だってわかるじゃない?それともファーストキスだったとでも言うの?」 「余計なこと言ってねえでさっさとしろ。外でするような話じゃねえんだよ」 「は?」 珍しく挑発には乗らずに、ボソボソと小声で言ってきた。そういえば顔を合わせた時からおかしいなとは感じていたが、最近のシズちゃんがおかしすぎていて忘れていた。 いつもの出会い頭に怒り狂っているような気配ではなくて、どこにぶつけたらいいかわからない怒りをかろうじて思い留まっている、という感じがした。 しかもこの間のキスのことをどうでもいいかのように振舞って、外でできないような話となると、嫌な予感が働いて眉を顰めた。 考えられる事態はたくさん起こっている。特にあげるとしたら、俺が男に強姦されていた、という事と現在粟楠会の四木さんの愛人になっている、という事だ。 どっちも尋常ではないが、シズちゃんにそれを知る方法が無いのは承知している。 誰かが本人に直接吹き込まなければ。 しかもそんな酷い噂を信じてしまうような、信頼のおける相手から話を聞くなんて数人しか思い当たらなかった。 「もしかして最近新羅に会った?」 情報源はそこしかなかった。そして四木さんが新羅と繋がりがあるのを昔から知っていたので、もしなにかを企んで俺のことを流したとしたら、今日この時間にシズちゃんが居たのも納得できた。 解錠の音がして、扉を開きかけながら聞いたのだが返事はすぐに返ってこなかった。 とりあえずそのまま部屋の中まで入ると当然のように、入ってきた。そしてタイミングよく振り返ると後ろでガチャンという閉まる音を確認してから、口を開いた。 「新羅から聞いたんだよ。手前がやべえことになってるっつーか…ヤクザなんかの愛人やってるって聞いたんだが、本当なのか?」 text top |