「これ、っ…おかし…ん、うぅ…」 もうここに帰ってきてからオナニーを始めて、どのぐらい時間が経ったのかわからない。ただ熱をおさめる為だけに始めたのに、いつまで経っても終わる気配はなかった。 あえぎ声はとっくに掠れていて、喉が痛いぐらいにヒリヒリしていた。しかしそれでもこの場所から一歩も動けないでいた。 歩く体力もほとんどないがそれ以前に、ここから逃れられない理由があった。 『腰振ってよがってんの、かわいいじゃねえか』 「う、そ…」 『首輪が奴隷みたいで似合ってるな』 「ちがう、これは…っ」 『犬みたいに尻振って誘いやがって、とんだ淫乱だな』 「シズちゃんじゃ、ない…から、こんなこと言わない…!」 はじめのうちは幻聴の声が嬉しくて、胸があたたかくなるような幸せな気持ちで悦んでいたが、だんだんとエスカレートしていって違うと思うようになった。 快楽で頭がどろどろに蕩けきっていたが、これが偽りのものだということぐらいは判別できていた。 それは俺が本気でシズちゃんを好きだからで、溺れつつも意識を繋ぎとめていることができた。けれど幻聴も全身を襲う悦楽も止まる気配はない。 最初に男達に飲まされた薬が記憶を失うものだったが、それとは真逆の効果のようだった。 忘れるどころか常に心を狂わすような甘い声が囁かれるのだ。しかも想いを寄せている相手のもので。 まさに拷問だった。 俺がシズちゃんのことが好きだという事実を知っているあいつらだからこそ、薬の種類を変えたのかもしれないと思うと寒気がした。 『こんなに精液いっぱいにして、グチョグチョでいやらしいな』 「うぅ、ん…っあ、く…ぅ」 『臨也がイくところが見たいな』 「や、だっ…も、らめっ…あはぁ、はっ、はうぅうんんっ…!」 ローターはとっくに引っこ抜いていて、自分の指だけでひたすらに感じる場所を擦って達した。体の内に残っている精液がまたどろりと太股に垂れてソファを汚していった。 もう今度こそ終わりだと思っているのに、熱は止まらない。 「はっ、は…また、あつい、あつ…っ」 『まだ満足できなかったんだろ?もっと溺れるまで喘げよ』 「もっ…俺は……!!」 声を振り払うように立ちあがった。足元はふらふらしたし、一歩一歩進むのがやっとだったがそのまま時間を掛けてなんとかパソコンの前まで移動した。 電源を入れてとりあえず椅子に腰を下ろした。起動している間に必死に呼吸を整えていた。頭の中にまだ声が聞こえてきているようだったが、ぶんぶんと頭を振って耐えた。 「調べ、ないと…」 すぐにマウスを操って飲まされたであろう薬を調べようとして、その前にメールボックスを確認することにした。ほんの気まぐれだったが、それが見事に的中した。最悪な形で。 昨日届いていたメール以外に何通も新しいものが届いていて、そこに書いてある題名に目を見張った。 ”情報屋折原臨也の痴態を実況中” 「は?え…?」 受信時間は今から数分前になっていた。とりあえず中身を見ると怪しげな煽り文句と共に、アドレスが貼り付けてあった。だがそれをクリックする勇気がない。 「実況って…ま、さか…?」 震える唇で呟きながら、ふとソファの前のテレビのあたりを眺めてそこに見覚えの無い物が置いてあることに気がついた。 帰ってきて即ソファの前でオナニーをしたので、なにも確認はまだしていない。だからこその盲点であった。 「全部…見られてた、とか?」 とても信じられなくて呆然としながら、きょろきょろと室内を見渡すと至るところに知らないカメラが設置してあって数はかなりあるように見えた。 いつの間に部屋に入られたのかなんてわかりきっている。鍵を奪って複製するぐらい、あいつらには造作も無いことだった。 「…っ!」 その時タイミング良く携帯電話の着信音が鳴った。ディスプレイに表示されたのは知らない番号だったが、出ないわけにはいかなかった。 覚悟を決めて通話ボタンを押すと聞き覚えのある声が、聞こえてきた。 『まさかこんなに早く気がつくとは思わなかったなあ。もう少しお客を釣って欲しかったんだけど』 「やっぱ、り…見てたのか?」 携帯を握る手にじんわりと汗をかき、悔しさに歯軋りをしたが向こうには届かなかっただろう。わかったような相手の物言いに、半信半疑で問いかけた。 『幻聴とか聞こえてきたでしょ?しかも大好きな平和島静雄の…』 「それ以上言うなッ!」 おもわず大声で怒鳴りあげていた。皆まで言われなくても全部理解できていたからだ。ギリギリと歯を食いしばりながら、興奮しすぎてあがった息を潜めた。 それでもまだ怒りはおさまらない。しかし向こうはまるですべて計画通りに進んでいると言いたげに、話してきた。 『まだ体も快楽の熱に浮かされてるよね?大丈夫数分後に迎えがそっちに着くから戻ってくるといいよ。そして今度はもう二度と帰さないから』 「ふ、ざけるなッ…じゃあなんで、今日は!?」 始めから離さないつもりであれば帰さなければよかったのにと思い、尋ねた。すると予想外の言葉が返ってきた。 『もう一度ぐらい会わせてあげようっていう優しさだよ。もうしっかりと声が耳に焼きついただろうし、別の意味で役に立ったけどね』 「クソッ最悪だ!」 恨み言を口にしながら携帯を切った。だが数秒もしないうちに来客を告げるインターフォンが鳴った。出たくは無かった、このままここに立て篭もればなにもかもが解決しそうではあった。 だが。 『ぶっといの突っこまれながら、精液をぶっかけて欲しいんだろ?』 聞こえてきた幻聴に耳を傾けながら、虚ろな瞳で扉の解錠ボタンを押してそこに映っている何人かの男達を家に招き入れてしまった。 text top |