「えー俺のも脱がしてよ。ほらこれも一応スキンシップなんだよ?肌をふれあう前に軽く脱がしっこして、緊張をほぐしておかないと」 言いながらわざとらしく首を傾げて、ねっと同意を求めてきた。とてもじゃないがそんなものに付き合っていられない。 異様な雰囲気に流されかかっていたが、やっと冷静な頭が戻ってきた。臨也と恋人同士プレイだなんて、冗談じゃない。 「ねえ、まさか服をビリビリに引き裂いてやろうって思ってない?」 「…うっ!」 口を開きかけたところでタイミング良く釘を刺されて、体がぴたりと停止した。こういう勘の鋭さとか、本当にムカツク奴だった。 しかたなく恐る恐る手を伸ばして、臨也のコートに手を伸ばした。後で何を言われるかわかったものじゃないので、慎重に片方ずつ腕から脱がしにかかった。 「懸命な判断だね」 「うるせえ!」 いちいち俺の行動一つ一つに口を挟んできて、むかつき度はあがっていったが不思議と殴りたいとまでは至らなかった。 それはきっとこいつの顔が真剣そのものだったから、だと思う。いつも出会った時に見ていた、こ馬鹿にしたような余裕のある表情ではなく仕事に対するひた向きさが見えたのだ。 こんな最低最悪の悪党野郎でも、一度受けた事に対しての誠意を忘れずにやるのだと感心した。まぁ確かに自分の我を通せば仕事なんてできなくなる。 偶然嫌いな相手が客になったからといって、拒否するなんて許されないのだ。だからきっと今も嫌々やっているのだと、思っていた。 「ふふっ、でもシズちゃんにこうして脱がしてもらう日が来るなんてなぁ。なんか嬉しいよ」 「あぁっ?嬉しいだと?」 眉を顰めて怪訝そうに尋ねたが、ただニコニコと笑い返してくるだけで気持ちが悪かった。ほんとうに機嫌が良さそうだった。 てっきり俺のことを弄んで楽しんでいるだけなのだと考えていたが、どうやら少し違うらしい。 「しっかし手前ちゃんと食ってんのか?色は白いしやたら細いし、学生の頃と変わってなさそうじゃねえか」 コートをソファの上に投げて現れた腕をじっと眺めながら、ふと昔のことを思い出していた。体育の授業の時に半袖の体操着を着ていた以来だった。 「へえ、よく覚えてるね。もしかしてじっと見てたの?変態」 「こんなことしておいて変態はどっちだ!それに俺はこんな、もやしみてえな腕でよく俺とやり合ってるなって…違ええぇっ!なんで俺がノミ蟲の心配なんかしてんだ!!」 「あはは、もうおかしいよシズちゃんったら」 なんだか自分自身が恥ずかしくなって、少しだけ乱暴に上のシャツを剥ぎ取って、ズボンのベルトに手を掛けた。向こうは慣れているのか微塵も動かなかった。 そのままカチャカチャと音を立てて外し、チャックを下ろしたところでズボンを上から下に布を引き摺り下ろした。 すると臨也から足を抜いて、ズボンを綺麗に脱がすことに成功した。やたら心拍数があがっていたが、勢いのままに下着に手をふれて乱雑に下ろした。 当然わかりきっているのか自ら脱いで、しゃがんでいた俺の眼前にノミ蟲のモノがあった。さすがに勃起してはいないが。 「もう、あと少しイチャイチャしても良かったのになぁ。ま、あんまり時間も無いししょうがないよね。じゃあお風呂行く?」 名残惜しそうに言ったが、すぐに気分を切り替えてバスタオルを手に持っていた。あれ?と思って下を向くと、あるはずのバスタオルがなくなっていた。 「おい!返しやがれ!!」 「なに言ってんの、これから入るからいらないでしょ?まったく…」 ぶつぶつと呟きながら風呂場の前の籠にタオルを放り投げやがった。うまいこと中におさまったのを確認すると、背中を押しながら浴室の中に入るように促してきた。 渋々扉を開けると熱い湯気がぶわっと顔にかかって、真っ先に浴槽に湯が張られているのに気がついた。 「っつーかなんでこれ、ピンク色してんだ?」 「いや、だからローション風呂のオプションがついてたでしょ?それにそこの横のボタン押したら、もっと卑猥な色で点滅したりするよ」 湯の色が明らかに変な色をしていたので問いかけたら、わけのわからないことを言ってきた。しかも俺の体を押しのけて扉の真横にあったボタンを押した。 するといきなり室内の照明が落ちて、浴槽内だけが光り緑や青に黄と連続してチカチカと点滅し始めて唖然とした。 「ほらすごいでしょ?他に泡風呂もできるんだよ」 また別のボタンを臨也が押すと、ボコッボコッと大きな音がして水面に気泡が現れてそのままうるさいぐらいに断続的に水が弾けとんだ。 温泉施設にも似たようなものがありそうだったが、それとは微妙に違うようだった。明らかに騒音が激しいし癒されるどころの話ではないだろう。 「うるせえ!」 「うん、まぁ遊ぶのは後にしよっか。先に体洗わないとね」 とりあえず電源を落として照明も泡も止めると、入り口に突っ立っていた俺の脇をするりとすり抜けてシャワーの前に立った。 室内はそれほど広くは無いが、浴槽は男二人が入っても充分なぐらいの広さだった。さすがこういういかがわしいことをするホテルなだけはある。 「ねぇ、これ熱くない?」 「あ?あぁ大丈夫だ」 「じゃあ体にお湯かけてくね」 シャワーを手に持ったまま俺の腕を取り、手の甲に軽く湯をかけてきて温度を確かめてきたようだった。 俺に対してそんな細かい気づかいまでしやがるとは、本当に仕事だと思ってやっているのだろうなと感じた。 そこまで割り切って臨也がしているというなら、あまり抵抗するのもよくないのかと、相手が誰なのかも忘れて素直に従った。 体中にとりあえずお湯をかけられて流した後、ちょっと待っててと言われたのでそのまま立っていたら向こうがしゃがんでなにかをし始めた。 桶にほんの少し湯を入れた後、石鹸の入ったポンプを何回も押して中身をぶちまけて、それから備え付けの簡易スポンジを取り出しガシャガシャと音を立てて泡立てた。 「ほんとはこれにローションをちょっと入れたらもっとぬるぬるして気持ちがいいんだけど、今日はローション風呂だから自重しとくよ。ね、泡すごい気持ち良さそうでしょ?」 あっという間に洗面器の中は泡まみれになり、それをすくい取って俺の足にべっとりと擦り付けてきた。 「は?おい…」 嫌な予感がして尋ねたら、青ざめるような言葉が返ってきた。 「シズちゃんのきったないおちんぽも、全部綺麗に洗ってあげるよ」 text top |