「勝手に忘れようとすんな。俺はお前を忘れられないからまた気が向いた時にエッチさせろ、ってすごい告白だったよねぇ?」 「うるせぇ、何度もからかうんじゃねぇ。ひどくされてぇのか」 「乱暴したいのはそっちでしょ?あぁやだねこれだから鬼畜は」 いつも通りの会話のようだったがお互い素っ裸で下半身は繋がったままだった。やっと臨也の息が整ってきたところでこの話をされて、気が立っていた。 もう半月以上前の話なのだ。俺がこいつに真正面から体の関係を求めたのは。 最初こそしおらしい態度をしていたが慣れてきたら随分と調子に乗ってきて、なんだかんだと翻弄されたのが嘘のようだった。 またそろそろ薬を使ってやろうかと思っていたが、さすがに何度か思いとどまりやめている。そんなことをしなくても充分泣かせることはできるのだ。 結局臨也には二週間以上も過ぎたというのになにも話してはいなかった。向こうが聞いてこないのだから言う必要も無いと思っていたのだ。 これでもううまくいっているのだから変に事情を言ってこじれるのも嫌だという感情があったのだ。 ほぼ毎日押しかけてきているが一度も拒まないどころかノリノリで迎え入れるし、行為が終わればそれ以上のことは干渉しようとはしない。 体も充分に満たされているのか、俺が寝ている横でオナニーを拝見するなどということは一度もなかった。あれはあれでよかったからまた見たいのだが。 はじめの頃にはまっていたような変にマニアックなプレイをしていじめてやることももうなかった。気絶するまで犯すことなどもしない。 一応これは合意の上の関係だったのだからそこまでするのは躊躇われたのだ。以前の暴れっぷりを考えると随分と大人しいがしょうがないと思っている。 簡単に今の状態を崩すなんてことはしたくないのだ。 ここ最近は池袋で見掛けても俺は臨也を追わないことにしていた。こうなる二週間前から外では会っていなかったのだからもう一月近くは喧嘩もしていないだろう。 そろそろ噂にもなりはじめている頃だった。あの二人はどうしたのだと。 「ところでさぁ…そろそろ聞きたいことがあるんだけど」 不意に話しかけられて俺は眉を顰めた。いつかは必ず聞いてくるだろうと思っていたから覚悟はしていたが、妙にうろたえてしまった。 胸がやけに高鳴り鼓動が早くなっているのだが、そんなことは悟られたくなくて必死になんでもない振りをした。 「なんで最近……っていうかここ一ヶ月以上喧嘩をふっかけてこないの?俺の体を気づかってるとでも言うの?」 その言葉に拍子抜けしてしまった。深刻な顔をしている割にはあまりにも普通の質問で、俺のドキドキを返せと言いたいぐらいだった。 追わない理由はただ単にそこで喧嘩になってしまうといろいろ下半身的にマズイからだ。殴られて痛がっている顔を想像しただけで反応しそうな自覚はある。 「それこそこうなる前は手前が外出すらできない状態だったし、まぁこうなってからは追いかけなくても夜にこっちに来れるから別にいいかなって…」 「ふーんまぁいいや。なんか俺も詳しいこと聞きたくないって感じだし、やっぱりどうでもいいや」 そう告げると途端に興味無さそうな表情をして目線を逸らした。聞きたくないと言われると、どうしても人間の心理的に言いたくなるのが当然でつい本心が口をついて出ていた。 「なんでこんな淫乱になったのか知りたくないって……逃げてんのか?」 「逃げてるって言われると腹立つねぇ。別にいいよ俺はシズちゃんがいてくれるんだからそれで」 挑発したつもりだったのだが珍しく消極的というか乗ってくることはなかった。俺との今の関係がうまくいっているから、過去のことはどうでもいいと言うのだろうか。 確かにこいつはなんにも覚えていやしないけど、だからといって目を背け続けているというのもおもしろくなかった。 『だ、いすき…だよ?シ、ズちゃ……ん?』 忘れてはいない。 涙をこぼしながら必死に訴えたあいつの姿を。 「もういい。今日はこれ以上気が乗らねぇ、帰るわ」 「ちょ……っう…!」 中に埋まっていたものを引き抜くと白濁液がそこからどろどろと溢れ、俺の小さくなった先端から糸を引いていたがやがてそれが切れた。 近くに置いてあったティッシュで綺麗に拭き取ると、落ちていた服を拾いさっさと身につけていった。 自分でもなにをこんなにショックを受けているのかわからなかったが、今目の前にいる臨也とあの時の臨也がすっかり別人のように見えた。 気まぐれな奴だったが根本的になにかが違う気がしていた。うまく言えないが、心構えというか姿勢が異なっているようなのだ。 揺らがない信念みたいなものを持っていたはずなのに、現在はそれがすっかり折れて拗ねているというか自暴自棄になっているように感じたのだ。 理由はわからないが。 部屋から出て行く俺を引きとめようともせずに、ベッドの上からじっと眺めていた。扉を乱暴に閉める瞬間、なにか声が聞こえたようだったが無視した。 「わかったよ、じゃあ徹底的に調べてやろうじゃないの?」 外に出るとまだ深夜の為かまだ少し肌寒く、背筋を寒気がかけあがっていったが頭を冷やすにはちょうどよかった。 ポケットから煙草を取り出し火をつけて息を吸いこんだ。普段なら歩き煙草なんてしないが、この時間で周りに誰もいないし咎める者もいないのだからいいだろうと思った。 「あいつは…どこにいっちまったんだろうな」 この俺にどす黒い感情を抱かせ毎晩獣のようにはまるぐらいに熱中していた相手は、もうどこにもいない。ただのマンネリなどとは違うのはわかっていた。 こっちから持ちかけた関係だったが、その時にはもうなにかが違っていた気がする。どこがどう違うとは説明できないのだが。 もしあの時媚薬を飲ませて記憶を奪っていたら、今のようにはならなかったのではないかという後悔も少なからずあった。一度ぐらいよかったのではないのかと。 リセットさせた状態で事情をはじめから説明して、きちんと謝罪していれば少しはなにかが変わっていたのではないかと。 「ただの自己満足だな」 結局はそうできなかったのだからしょうがないことなのだが、考えずにはいられなかった。 一人思い悩む前にしっかりと本人に詳細を確かめればよかったと自覚した時には既に遅く、それは俺も臨也も同じだった。 まさかまだお互いにすれ違っているとは思わなかったのだ。 text top |