「あの、ね」
どちらかと言えば賑やかなBGMが流れているここ、マジバで、目の前に座る女の子は悲しそうな表情を浮かべていた。実は俺の彼女だったりする。付き合ったのは中2の夏くらいだったか、あれ、冬か。今更どうでもいいか、なんて真新しい制服に視線を落とした。俺は誠凛で彼女は確か秀徳だったはず。
「別れよう、って言いに来たの」
「………うん」
「ひとつ、聞いてもいい?」
「いいよ」
「今、何人の子と付き合ってるの?」
「…………」
「そっか、」
「うん」
「ごめんね、ありがとう」
答えると言いながら答えなかった俺に何も追求することはせず、バイバイと可愛らしい笑顔で席を外した彼女、いいや、元彼女。
質問に答えてあげればよかったなあと今更。何か察してはいたようだけれど。
「追いかけないんですか」
「は………?」
淡々とした声。何事だと事を理解する前に目の前には同じ制服が映った。高校はもう少し落ちつくつもりだったというのに、内容を聞かれていたなら最悪だ。
「………盗み聞き?」
「ボクは最初からここに居ましたけど」
「……ああそう」
「きっとあの子、まだ君のこと好きですよ」
「あのさ」
はあ、と大袈裟なくらいのため息を響かせて名前も知らない彼を見る。水色っておい、赤も居なかったか、誠凛。
「帰っていい?」
「……黒子テツヤです」
「は?」
「ボクの名前だ」
数日前を思い出しながら素直に思ったことを口に出せば、脈絡のない言葉が返ってくる。なんだこいつ。
けれど変にごまかして帰るタイミングを逃すのは面倒なので続くだろう話を続けた
「みょうじなまえ。あとは何が知りたいの?」
「今、何人の子と付き合ってるんですか?」
「あの子で最後」
「そうですか」
「……じゃあ帰るから」
鞄を掴んで、今度こそ席を立った。変なやつに会ったなあ。