「みょうじくん」
「…?」
弁当の包みをひらげて、いただきますのポーズをとったところでどこからか声がかかった。右を向いて左を向いて、前を向けばみょうじなまえと書かれた生徒手帳が視界に入る
「落ちてました」
「!……あ、そう。ありがとう」
「いえ。ここ、いいですか?」
「ああ」
ありがとうございますと前の席に座って俺と同じように弁当をひろげる彼は確か、黒子テツヤだ。
今日は黒子が昼飯の相手らしい。特に誰かと食べるということにこだわりを持っていない俺は毎日相手が変わる。友達だったり、女の子だったり、クラスメイトだったり、そしてここ最近黒子もそのひとりになった。たまに火神とかいうのもいる
「勝ちました」
ぱく、ぱく、ともの静かに口を動かしていた彼が不意にそんなことを言った。唐突すぎて理解に遅れたけれど、部活のことだろう。
「試合?」
「はい。練習試合ですけど」
へえ、と言いかけて、止める。これが黒子と初めての会話なら止めはしない。でも、最近はそれなりに会話しているし、素っ気ないのは失礼だ。それならばと手の平を彼に向けた
「あの…」
「タッチ。バスケってこうするんじゃないの?違った?」
サッカーみたいに興奮にまかせて抱き合ったり背中にタックルされたりと激しいものではないはずだ
「……――」
数秒の間俺を見つめていた黒子だが、箸をおいてタッチのポーズを作った。そしてぱち、と小さな音を立てて合わさる。想像していた音よりも間抜けなそれに、思わず笑ってしまった
「ふ、変な音。試合、お疲れさま」
「………」
「黒子?」
「あ…―はい。お疲れさまです」
「うん」
火神ってやつにもやってやろうかなあ、なんて。