今日は朝から腹を満たす絶好のチャンスだった。女もガキも街へ出掛けて、家には色男だけがいる。そろそろ腹が空く頃合いもあり、空腹になるまえに吸わせてもらおうとウプサーラ湖にやってきたのだ。気配はないが、窓を覗いてドンドンと叩く
「オイ!!ヴィクトル!開けろ!吸わせ―…」
ぴたり、不意に後ろから尖った銀色が俺の頬ギリギリに宛がわれた。ヴィクトルだ。
「家の前で騒ぐのはいただけないぞ」
「う…うっせえな!気配消すなよ!女もガキも居ねえからいいだろ」
「なまえ、明るいうちは来るなと教えただろう、学習しなさい」
「そ、れは…だって腹、減ったんだよ…!」
「あと二日は持つと私は記憶している。違うか?」
「………そう、だけどさあ」
返す言葉がなくなって、後ろを振り返った。相変わらず仮面の下は何を考えてるのかわからねえし、きっちりと着込まれている衣服は甘い匂いを抑える。つまりは隙が、ない
「私はこれから仕事だ。こんなところで神経を使わせるな」
ジャキ、と刃を下ろしてはあからさまなため息をこぼす。その態度には苛立ったけれど次は本当に切りつけられるだろうから舌打ちだけに留めた。
「文句なら聞いてやろう」
「仕事サボればーか」
「……――」
チャキ、と折角仕舞われた双剣が今度は銃に変わって俺へと向けられた。文句なら聞くって言ったじゃねえか
「パパのウソツキ」
瞬く間にパァンッと銃声が湖にこだまする。潜んでいた鳥が一斉に飛び立って俺の頬には生温いもの。この匂いは俺の血だ。容赦しろよ
「ああ、悪いね。次は外さない」
「…そういやエルがでかくなったらパパとケッコンするつってたぜ?」
「………!」
ピク、と咄嗟のでっちあげに、ヴィクトルが反応してくれた。というよりも効果は抜群だったらしく、二発目が発砲されることはなく銃は下げられる。案の定親馬鹿と妻馬鹿が発動したけれど。
「そうか―エルが、そんなことを…。だがパパにはママが――」
やれやれ、今日も平和だな。