「もういいです」


「……こっちだって」


もういいよ。




―久しぶりに人と喧嘩した。原因は忘れてしまったけれど、誰かが聞けば馬鹿馬鹿しいと笑われる内容だったとは思う。


今直ぐにでも謝りに行けば、こんなにため息をつく必要もなくなるだろう。けれど不思議なことに、変なプライドが邪魔をして謝るに謝れなかった。


逆に今はそれが元となって普段できていることもできなくなり、絶不調。相手が友達や家族でもなく、恋人だというのも原因かもしれない。


そして、数週間が経ったある日、


「テツヤ……」


「……お久しぶりです」


喧嘩中の彼が家を訪ねてきた。

数秒居留守を使おうかとも思ったけれど、このままではいつまでたっても解決しないし、俺も嫌だった。だから覚悟を決めて部屋へと招き入れたのだが――



「………」


「………」


思った通り気まずい空気が流れて、とても恋人だとは言えない距離が空く。チクタクと時計の針が動くだけ。


そんな空気の中で、先に沈黙を破ったのは彼の方だった。ドキリと俺の心臓が音を立てる。



「……、名前くん、」


「………」


「…――かったです」


「え……?」


「…名前くんに、逢いたかったです」


「!…、…」


「最初は…ムカつきましたけど、だんだん寂しくなってきて、、やっぱり、一緒に居たい。…すみま―――!」


言い終える前に、ぎゅっと彼を抱きしめた。同時に胸が苦しくなる。


「ごめん……っ。俺も、寂しかった」


ごめん―ともう一度呟いて、久々の体温に自然と腕に力が入る。満たされなかった何かが、満たされていくような気がして。


「っ…名前くん―……大好きです」


「…ばか、」


「あったかいですね」


「ああ」


ぎゅっと彼も腕を回してきて、密着したそこからドキドキと少し早い彼の鼓動が伝わってきた。


「テツヤ――キス…していい?」


「……聞かないでください」


「はは、そっか」


微笑んで、柔らかい唇にそっとキスをした――




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