いつもなら殺風景としたそこも、今日は一段とキラキラ輝いていた。行き交う人々の気分がいいからって少々ぼったくりなところ以外は、俺も好きだ。


「遅いなー」


「あの、」


「うわっ!!」


まさかまだ来ていない彼から返事が返ってくるとは思わなくて、大袈裟に肩を揺らしてしまった。恥ずかしい。


「び、びっくりした」


「すみません」


「すみませんって…」


違うと思うよ……。


そんな彼は後輩の、幻のなんとかっていう異名?をもつ黒子テツヤくんだ。部活中、珍しく話し掛けられたと思ったら夏祭りに誘われたのだ。


もちろん特に用事もなかったから二つ返事で頷いたんだけれど、ひとつ問題が発生した。


それはこの人混みの中、彼を見失わないように歩ける自信がないということ。

普段、絶対に言えないが試合中も彼を見失ったりしてる俺だ。無理に決まってる。


「苗字先輩、大丈夫ですか」


「えっ、ああ大丈夫。行こうか」


声を掛けられたことで我に返った俺は、反射的に手を差し出してしまった。何してるんだ俺…と思ったけれど、これなら見失うことも逸れることもない。ナイスアイデア。


「………」


「………黒子くん?」


「、…はい」


「どうかした?」


「いえ……、なんでもありません」


ようやっと置かれた手を優しく握り返して、屋台へとゆっくり足を運んでいく。


「りんご飴買おっか。あ、りんご好きだった?」


「はい、好きです」


「良かった。俺も好き」




甘くて、おいしいよね。




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