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※ドクターは男性設定




ふわり、ふらり。

机に置かれたお香の煙がゆっくりと天井へ上がるのを横目に、俺はアーミヤと共にオペレーターを数名ほど集め、彼らへ作戦の指揮を行う。
レユニオンとの激戦が終わっても尚、未だ感染者、非感染者との争いは絶えず行われており、ロドスへ保護された感染者の数も途切れない。それ以前に、自身が記憶喪失を患っている為に今の俺はテラの世界についてまだ何も知らないままだ。まずはテラと感染者について把握なければならないのだが、ロドスでの仕事が今現在も山のようにあり此処から離れられそうもない。そこで、各移動都市の視察をオペレーターに任せることにしたのだ。

「ブラックナイトは炎国をお願い、といってもいつも通りかな?」
「了解」
「レンジャーとカッターはウルサス。危険だから単独行動は絶対にしないこと、いいね」
「分かったぞい」
「ドクターがそういうなら」
「エイプリルとヘビーレインはヴィクトリアへ行ってくれ。何かあっても無理に戦わない。隠れて状況報告」
「はいよー」
「はい」

一通り指示を済ませたところで隣に立っていたアーミヤに視線を向ける。彼女も首を縦に振りオペレーターへ解散の合図を出した。皆が部屋から次々と去り各持ち場へと移動しはじめる中、ただひとり部屋に残る長髪のリーベリに視線を移し声をかける。

「すまないね、パッセンジャー。君は……」

言葉を発したと同時に、突如煙から現れた乳白色の小鳥が彼の肩に止まり羽を休めた。

「"その人"と共に、サルゴンで情報を集めてきてくれ」

――"煙"の存在を容易く人に告げるものではない。

パッセンジャーがとある任務からロドスへ帰還した際、彼の隣に忽然と現れたのが印象深く残っており、同時に俺と初めての出会いでもある。
彼曰く、ケルシーとも旧知の仲であることを教えてもらったのだが、彼女から当時そう警告されたのを思い出した。

コードネーム、名前。ロドスを含め世に知られてはいけない、敵でも味方でもない、極秘であるべきトランスポーター。その為、契約上は「ロドスでの治療を受ける感染者」と報告しているが、その報告書は単なる紙切れ同然であり、実際はロドスに滞在すらしていないのである。

トランスポーターなこともあり、彼女からの情報量は確かだ。他の組織や集団から、喉から手が出るほど欲しいと言われている理由も分かる。彼女からの情報は勿論手に入れておきたいが、

実のところ、俺個人の本心としては、恋人関係だというふたりの時間を作ってあげたかっただけなのだ。

「仰せのままに、ドクター」

ふわり。小鳥は再び煙となり、お香の匂いだけ残し宙へ消えていった後、会釈するパッセンジャーが口元を緩ませたのを俺は見逃さなかった。名前と共に行動できる事に、この上なく上機嫌らしい。