理由を教えて


「葵が避けてる?」

どうもこの手の話は得意じゃない。恐る恐る言ってみると、当の幼馴染はうーんと腕を組んで考え込む。思い当たる節は無いようだ。

「俺は朝一緒に来たし、別に避けられてるとは思えないんだけど」

剣城の勘違いじゃないのー?と能天気に笑って教室へ入る。話そうとしてもいつも居る場所に姿は見当たらないし、見つけたとしても背後から声を掛けた瞬間すぐ走り去ってしまう。これが勘違いだったとしたら随分図太い神経だろうに。

ただ、天馬には心当たりがないくらい普通に接している事実を知った今、僅かながらにショックを受けている自分に気付いてしまった。ああ馬鹿馬鹿しい。今更何をされても構いはしないだろう。
考えている傍から俺の背後に何かを見つけたらしく、ぱあっと笑顔になり「あおいー!」と腕を左右に振る。背中を向けているからわからないが、恐らく俺達は同時にびくりと肩を震わせたに違いない。振り返ってみると案の定既に引きの姿勢を見せていたが、逃がすわけにはいかない。

「待てよ」
「なに」

言ってみても、背中を向けたまま頑なにこちらを向こうとしない。無理矢理留まらせようとドアにかけた手を掴む。

「離して…よ!」
「別に避けてることに文句は無えけど、お前が困る様な事俺がしたのか?それならはっきり言ってほしい」

何とか振り向かせることは出来たが、今度は両の掌で目から上を覆い隠していた。どこまで視線を合わせたくないんだ。色々きついぞこの仕打ち。

「み、見ちゃ駄目!」
「は?わけわか……」

必死に抵抗するも目から額を覆っていた両手を振り放すと、違和感。昨日まで見ていた彼女の面影とは少し変化していた。

「切り過ぎちゃった、か、ら」

顔を真っ赤にして俯く空野の前髪は、確かに分量が減り綺麗に眉の上に揃えられている。押さえていた手を退けて眺めると、それほど切り過ぎたようには見えない。

「良いと、思うけど。似合ってるし」

ぱっちりした目が前より映えて、何より目が合いやすくなった。好都合だと言う前に、ぼふんと音がしたような気がして、本人は直後しどろもどろたじろぎながら部屋を飛び出していった。

「俺悪いこと言ったのか」
「剣城って案外鈍感だよね」

天馬と一緒に居た西園が溜め息を付いて憐れんだ目でジトリと俺を眺める。一応避けられてはいなかったらしいがどうにも落ち着かない。確かに先程までの憂鬱な気分から解放されはしたが、また別の、今度はやけに心臓の音がうるさくてよくわからない動悸が襲ってくる。

「おい、これ」
「まさかわからないから教えろっていう訳じゃないよね?」

自分で考えて―。僕忙しいから。西園にぴしゃりと言われ天馬を連れて出ていってしまった。ひとりぽつんと残された俺は何をしたら良いかわからず、静まる気配のない鼓動をシャツごと鷲掴み物理的に抑えることにした。




理由を教えて




髪型変えても似合うし葵ちゃんてお洒落さんだよね
え、どこか変わったとこあったっけ
お前はまず俺に謝ろうか


fin.



2013.05/03
Thanks by:Toy Box


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