オーバーキャパシティ
「さっきから部屋の隅でうずくまってるけど、そんな場所にお友達はいないよ」
「いいんです膝小僧と友達になったんです」
せっかく淹れた紅茶が冷めてしまってはいけないと手招きすると、ようやっと重たい腰を上げて来客用ソファに腰掛けてくれた。不本意そうな顔をしてカップに口を付けた途端、曇っていた表情が和らいでくれたので一安心。
「おいしいです」
「それは良かった。出張っていう建前まで使って僕の所まで来たときは驚いたけど」
向かいのソファに座ると、とても教師とは言い難い叱られた子供のような落ち込んだ表情を浮かべて口をつぐんでしまう。今ここで子犬の耳を彼女に付けていたら、確実にへにゃりと垂れ下がっているのだろう。いやいや自分の趣味は置いておいて。
「一言多いですよ。事実ですけど」
気に入ってくれたのかカップを両手で持ちソファの上で膝を抱え込む姿は大人の女性とは思えない。頬を膨らませて目を逸らす彼女が意地らしくて、素直じゃないのは相変わらずだけれど誰かを頼ってくるところは成長したのかな、と成長を感じる。
「さて、お転婆な女の子が不貞腐れていた理由を聞かせてくれるかい」
一瞬何かを言いたげに顔を上げるがまたすぐ俯いてしまう。何度か繰り返しようやく腹を括ったのか、自信無さ気に肩を落として口を開く。
「皆頑張ってるのに、私は待ってることしか出来なくて、自分だけ何もしてないなあ、って」
端的な言葉でも確実に的を得ている第一声は、酷く震えていた。ぽつりぽつりと、話すうちに気が付けば目には大粒の涙が溜り、滴が落ちる寸前に指の腹でそれを受け止め包み込むように頭を撫でてやる。
「君が生徒達の帰りを待っているのと同じで、子供たちも安心して帰れる場所を求めているんだ。十分役割を果たしてる」
君は不安げな顔よりもっと綺麗な顔を持ってるでしょう。そう言って頬を優しく撫でると、彼女はちいさく微笑んで見せた。うん、やっぱり君は笑ってる方がずっとずっと素敵だよ。
「そのままおかえりなさいって言ってあげなきゃ」
初めて視線が絡まり目を細める。とす、と小さい音を立てて腕に飛び込んできたので、背中を擦ると「しばらく胸貸してください」と埋もれたまま言うから、こんな胸で良ければどうぞと下を向く。今だけ子供に戻っても、神様はきっと許してくれるだろう。
オーバーキャパシティ
甘え方を知らなかったの
fin.
2013.02/01