必然的祝福



「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。楽しかったよ」

いつも通りの休日、デート帰りのなんてことはない会話。次はどこに出掛けようか、そんな淡い恋心をぴしゃりと遮る事件が発生したのはつい数分前の事だ。
遠回りしようか、そう言ったのは彼でもちろん私も賛成し、満場一致でゆっくり河川敷を歩きながら商店街の角を曲がったところで、今世紀最大最悪な相手に鉢合わせてしまった。

「お兄ちゃん?!」
「春……?」

はて、自分の妹が他の男と腕を組んで親しげに歩いているところを目撃した兄というのは、持っていた鞄をその場に落とし目を丸くしながら怪訝そうにこちらを睨むのだろうか。答えは、ノーだと信じたい。

どうする、14年目にして修羅場が訪れるなんて思ってもみなかった。今更ごまかそうにも迅速に処理できる脳は持ち合わせていない。ていうか清いお付き合いをしてるんだから隠す必要ないのかな。いやいや、お兄ちゃんには禁則事項なんだろうか既に身を震わせている。

「お前達いつから」
「ち、違うのお兄ちゃん!隠してたわけじゃ」

春奈は黙っていろ、とやけに真剣な目で言われてしまい怯んだ隙に距離を詰められてしまう。

「俺が指摘しているのはそこじゃない。何故報告に来なかったんだ」
「報告に行ったとしても音無が兄の小言を聞く羽目になるだろ」

私と兄の間に割って入った風丸先輩が、一瞬別人のように見えて一歩後ろに後退る。あれ、いつもの背中と違う。

「俺達は三年だ。受験生の自覚はあるのか」
「それを理由に恋愛をしちゃいけないなんて誰が決めたんだ?」

いけしゃあしゃあと。お兄ちゃんも大差は無いが、ああ言えばこう言う彼を見たのは初めてだった。兄の博識な弁舌をふるわれたら、普通の人は簡単に丸め込まれてしまう。でも、目の前で繰り広げられている幼稚な意地の張り合いは中々決着が着かないようで。

「大した度胸だな。屁理屈の上手さだけは認めてやる」
「まあ、鬼道ほどじゃないさ」

爽やかに笑って見せる先輩をこれほど恐ろしいと思ったことは無い。吹雪さんならまだしもお兄ちゃん相手にここまで引き下がらない人間も珍しい。ふう、と息を吐いた兄の顔が心なしかすっきりしたように見えた。

「……勝手にしろ」

しかし吹っ掛けた本人はそれだけ呟くと、渋々踵を返し去って行ってしまった。
姿が見えなくなってから、彼はというとさっきまでの勢いはどこへやら盛大な溜め息と共にその場にへたりとしゃがみ込む。

「なあ今俺すっごく失礼な奴だったよな?後で謝った方が良いのかな。鬼道怒ってるだろうし」

いやでも刺激しない方が良いよな…なんて目を右往左往させながら考えあぐねる彼の姿に、思わず吹き出してしまう。なんだ、いつも見てる背中じゃない。

「笑うなよ!こっちは真剣に」
「いえ、大丈夫だと思いますよ」

自分と対等に張り合えて且つ信頼できる人間なら尚更応援しないわけにはいかないだろう。最初からそのつもりだったのに小学生のように張り合う兄と、必死に取り繕う彼を見ていたら可笑しくて堪らなかった。

「私達、愛されてますねー」
「どこがだよ!」

うろたえる顔なんて滅多に見れないだろうから、もうしばらく本当の事を伝えるのはやめておこう。



必然的祝福



結果は同じだったんだよ


fin.




2013.01/27


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