ぼくときみのおとしもの


「たーいーよー」

ぎゅう、とお腹辺りに腕を回してくる彼女はとても嬉しそうだが、案外石頭だったようで俺の腰は悲鳴を上げている。猪突猛進とはまさにこのこと。今日も今日とて手加減なんかしてくれないわけで。

「?どしたの?お腹痛いん?」
「ぜんっ…全然、痛くないよ」

どうにかこうにかやせ我慢と作り笑顔を見せると、良かったぁとその顔が綻ぶ。へらりと笑った表情を見ているだけで、こう、フラストレーションが洗浄されていくような気持ちになる。

「ところで、黄名子ちゃんもどうしたの?良いことあった?」

目線までしゃがんで聞いてみると、ぶんぶんと首を縦に勢いよく振って「そうそう!」と鞄の中を探り始める。

「飴?」
「うん!さっき音無先生からもらって!」

これこの前出たばっかの新味なんよーどこどこの会社が云々とマシンガンのように流れる話をひとしきり聞いたところで、でね、と切り出す。

「太陽にもあげようと思って。心配りやんね」

心配り。彼女がよく使う台詞だ。フランスに行ったときに覚えたんだとか、霧野さんが言っていたような気がする。しかし飴は二つしかない。本当に自分がもらっても良いのだろうか。

「でも、俺にくれたら他の皆のぶんはなくなっちゃうよ」

困った表情の俺とは裏腹に、彼女は依然笑顔を絶やさず「大丈夫!」と笑いかけ、そしてしゃがんでいた俺の耳元でそっと呟いた。

「みんなは明日もらうんだって。だから私と太陽だけの秘密やんね」

こっそり、まさに耳打ちにはうってつけの距離感だったのだろう。俺と君、二人だけの秘密。ほんの少しの優越感が全身を支配して、同時に彼女の頭を撫でる。

「分かった。俺達だけの秘密だね」

ゆびきりげんまん、そう言ってお互いの指を絡めると自然と笑顔が溢れていく。
誰も知らないことを共有している事実だけが、俺達を取り巻いていく。小動物のような可愛い女の子が相手だったら尚更、子供心に逆らえず、わくわくしてしまうだろう?




ぼくときみのおとしもの


二人で拾いに行こう



fin.



2012.11/24


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