無防備な鎧


休憩時間に彼女に連れられやってきたのは戦場に似合わない綺麗な花畑で、あまりの荘厳さに口を開けないでいるとおもむろにしゃがみ込み、日本でもよく目にする花を一輪詰んで結び始める。

「私の生まれ育った村は、もっといろんな花が咲いていて綺麗なんです」

心底嬉しそうに話す彼女を見ていると、つくづく鎧の似合わない少女だなと目を疑う。こんなにか弱くて、どこにでもいる普通の女の子で、重たい装備を身に纏い剣を振るっているよりも友達とお喋りしたり買い物しているほうがよっぽど似合っているように思うんだけれど。

「俺が住んでいたところにも咲いてたよ、それ」

倣うように隣に座って、作業に見入っていると、依然にこにこしながら出来上がったらしく、差し出されたシロツメクサの花冠がふわりと俺の頭に乗せられ、満足そうな彼女とふと目が合う。

「ええと、嫌いじゃなかったら」
「ありがとう。良く出来てる」

自分がしたことを恥ずかしがっているのかおろおろと目線を泳がせていたが、良く似合ってるよと笑うその顔に思わず安堵の息を漏らしてしまう自分が居た。

時代は錯誤、乱世の渦、言ってしまえばあっちやそっちの争い事に巻き込まれるのも時間の問題だというのに、今この瞬間の俺達の周りは気味が悪い程に平和で穏やかだ。草木が風に揺れ、合わせて風車が回り、気持ちの良い吹き抜けた草原がちっぽけな俺達を包む。

「こんなこと、してる暇は無いんですけどね」

驚いたことに口走りそうになった単語を彼女が呟き、見渡す限りの花畑に目を細める。きっと俺達は思考が似ているから、こんな近い距離に居ても何も違和感がないのだろう。まるでもう一人の自分と出会った感覚だった。

「もし、戦いが終わったら、何をしたい?誰かの為じゃなくて、自分のしたいこと」

そもそも自分のために行動する、なんて考えたことは無く目の前の状況打破しか頭にない彼女は、一瞬戸惑ったような表情を見せたがじゃあと口を開く。

「またここに二人で来たいです」

社交辞令でも、俺に気を使ったのでもなくそれは恐らく本心で、自然と今までの緊張と背中に乗ったプレッシャーがすとんと落ちたような感覚に陥る。気休めだとしても、幾分か体が軽い。
求めあうものは違えど成程、今この瞬間だけは分かりあえたような気がして。たまには風にそよぐ髪の毛も好きにさせてやっても構わないか。



無防備な鎧



約束ね


fin.




2012.09/09


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