スクエア・ワン
ああどうして今日雷門を訪れてしまったのだろう。せめて少しでも時間をずらせば良かった。俺の周りにはうっとおしいくらい絡んでくる車田と天城と、後ろから苦笑いしている三国と、それから後輩達。確かに目的はこいつ等に会うためだが建前に利用していたのも間違いではない。
前もって連絡を入れていた俺とふらりとやってきたあの人。悔しい、と認めるくらいなら強がっていた方がまだましだと思うくらいには子供だなあ、俺。
友人関係にしては近すぎやしないか、距離が。自分があの人に対して苛々しているのがどうしようもなくもどかしくそして不思議な気分だ。原因は分かっているのにそれを頑なに認めない自分が、果たしてあそこに割って入るだけの度量を持ち合わせているだろうか。
古い知り合いなら自分が入り込む余地はありはしない。何を話しているのかはわからないし。し、知りたくもない。と上辺だけ綺麗ごとを思っているだけで実際のところ奥底の思考とは矛盾しているわけだが。
悶々とする俺をよそに会話に華が咲いている二人だが突如季節風が俺達の間を通り抜ける。砂が目に入らないようにと各々目を瞑ったりしている最中、一足先に薄ら目を開ける。そこにぼんやりと見えたのは、音無先生の頭を優しく包んで背中に手を回しているあの人の姿だった。
同じ空間にいるのでさえフラストレーションが溜っているというのに、さっきの今で脳内でぷつりと糸が切れ、砂嵐が止むと脇目も振らず早歩きで二人の元へ向かう。
この際プライドも何もかも関係ない。唐突に先生の腕を引っ張り相手を睨みつける。
「君は確か」
「み、南沢く」
「ちょっと音無先生借ります」
挨拶もろくにせず目線なんて合わせず、校舎裏まで足は止まらず結局先生の「ストップストップ!」という懇願が無ければ校舎の中まで入っていたかもしれない。
「どうしたの?何か」
「特に意味はありません」
「ありませんって…」
ただあの人から貴女を遠ざけたかっただなんて口が裂けても言えずはぐらかしていると、先生の困惑している顔が段々と和らぎ、にこりと微笑む。
「わかった、吹雪さんとお話したいんでしょ」
それならそうと早く言ってよもう、と納得したのちそうだよねえプロ選手だもんねえと勝手に自己解釈に陥っている。180度違うよ先生。
結局遠くまで引き離したのにまた彼の元へ走っていく。今度は違う用事を引っ提げて。そしてゴール目前だった俺はあっけなく振り出しに戻る。
スクエア・ワン
4の目が出たらスタートに戻りましょう
fin.
2012.08/27