一秒、目を閉じる
現代に戻ってくると皆一段と逞しく成長しているから、次は誰が、と期待してしまうのだが今回はどうやら副作用のほうが強いみたい。
とてとてと私の後ろから覚束ない足音が聞こえ、背後でぴたりと止まり直後ジャケットの裾を引っ張られる。
「霧野…君?」
噂には聞いていたがこれが成長後の彼らしい。薄桃色になって、両サイド姫カットに切られた髪の毛。曰く、こちらに戻ってきてもまだ扱いに慣れておらずときどき不適切に発動してしまうのだそう。本人も解除の仕方がわからなくて、暫くするとまた元に戻るらしい。ええと、この姿になっているときの自我はあるのかしら。
普段の釣り目とは打って変わってふにゃりと目尻を歪ませ、喜びの意を示す。
「先生みてみて!おそろい」
年相応もしくはそれより下に見えそうなはにかんだ笑顔を私に見せる彼は、心底嬉しいようで何度もしきりに眼鏡のフレームを撫でている。いつもより精神年齢が若干低いような気がするのは私だけだろうか。所々拙い表現で、ストレートな感情を顕わにするから少し驚いてしまう。
「そうね、お揃いね」
首を傾げて笑うとそれに合わせて長くなった髪がゆっくりなびく。レンズの奥の瞳に吸い込まれてしまいそうで、目を離せなくなる。
「俺今すっごく嬉しい」
「そんなに?」
ふとした表情の合間にどこか切なげな顔も覗かせて、嬉しいと口にしているのに一瞬だけ正反対の面影が映る。何がそんなに、もう一度言おうと口を開いた瞬間黒い影に覆われる。
「強くなった自分と帰ってきて先生と一緒に居られることと、あとたくさん」
全部嬉しいよ、そう言ってふわりと添えられていた両手を離し去っていく。唇がわずかに触れた右頬を撫で、頭が真っ白になる。こんなに、いとも容易く行われてしまうとは思わなかった。準備の出来ていなかった心臓は簡単に貫かれ、じわりと火照りが目頭から滲み出た。
一秒、目を閉じる
開くとそこには熱気を帯びた見知ったピンク
fin.
2012.08/12