マイナスからの不可抗力
※茜→拓前提
「ラブレター、また受け取らなかったのか?」
「そんなんじゃないよ。私の下駄箱にたまたま手紙が入ってただけ」
瀬戸が大きな溜め息をつく中当事者は一人何食わぬ顔でカメラのデータを確認している。今月に入ってから三度目だ。どこのどいつだか知らないけど山菜が神童のこと以外で反応するかっての。
受け取らない、のではなく封を切ることさえしないのだ。シンサマはモテるから、なんてどの口が毎回言ってるんだろうと頭を抱える。もう少し自分の置かれている立場も考えたらどうだろう。なんて言えるはずもなく。
「あーあ、また純情男子の心をいたぶったな」
「だからそんなんじゃないって。あと霧野君に関係ない」
軽い冗談のつもりで言っただけなのにむすりとさらに眉間のしわが寄って頬を膨らませる。
「そんなのほっといてさ。今度俺とどっか遊びに行こうよ」
「いや。」
何で霧野君と遊びに行かなきゃいけないの、と不満しかないと言わんばかりの形相でこちらを睨んでくる。おいおい相手が俺だったから良かったけどもし他の男子例えばそのラブレターの相手だったら完璧にズタボロにされてるぞ。
「えーせっかく神童のソロコンサートチケット二枚もらってきたのになあ。違うやつと一緒に行くかなあ」
「行く。いつ」
親友をだしにするのは申し訳ないがこうでもしないとこいつは動かないのだ。利用できるものは遠慮なく使わせてもらう主義。不本意そうな顔をしながらもホイホイ釣れてしまう辺り、本当に神童のことしか頭にないんだなあと今更思ったり。
「明後日、11時に駅前集合な」
待ち合わせと時間を聞いた瞬間目が輝き大きく頷いた後全力ダッシュで部室から出て行った山菜の背中を見送る。自力でデートとやらに誘ったは良いものの腑に落ちない。間接的ではあるが友人の力なくしては交渉成立しなかったからかもしれない。
「お前さ、さっきのあれでいい訳?」
一連の出来事を真横で見ていた瀬戸が腕を組みながら首を傾げる。結局は俺の事なんて視界にすら入ってないし傍から見たらそう見えるか。
「んー、別に良いよ」
でもこの距離が俺たちにとっては最適な距離な気がする。強がりにしか聞こえないけど多分良いんだ、これで。さて日曜まで自己暗示しなければいけないわけだけど、俺の脳はそんなに優秀じゃないから仮面はすぐ崩れると思うんだ。
マイナスからの不可抗力
紳士の素振りも三度まで
fin.
2012.07/12