ポジティブ系意気地なし
こちらの霧野視点
憎悪と嫌悪と怠惰を携えた俺の心は荒んでいたに違いない。もう関係ない。この部活ともこのスポーツとも貴方とも。三国さんも言ってたけど何であそこまで熱くなれたか今の俺には理解できなかった。過去の自分はどうしてたかが中学の部活に執着していたのかさっぱりわからない。
「もう俺は貴方と関係ない人間ですから」
ずきずきと。一言二言話すだけで心に錘がずしりと圧し掛かってくるのがわかる。結局は俺とこの人を繋げていたのはあの忌々しいスポーツだけだったのだと気付くと改めて人との繋がりの薄さを痛感する。そうだ、きっと長い間一緒にいたから自然に、必然に彼女に惹かれていたんだ。それが無くなった今この人に自分の想いを振り回されずに済むんだ。わかっただけで清々したじゃないか。早く家に帰ってユニフォームを処分しなくちゃ。
「待って、いつもの霧野君じゃないわ。何があったの」
何があったの、もう一度神に頼むような懇願したその目で俺を見据える音無先生に未練は今さっぱり断ち切った。はずなのに息は上がり目が一向に逸らせない。背を向けドアが開いてそれでお終い、たったそれだけの動作がはばかられる。脳では確かに伝達しているのに手足が動かない。
「何もありません。俺自身が決めたことです」
自分でもどうしてこんな足が重いのか目から涙が溢れ出そうなのかわからなかった。折角面倒なしがらみから抜け出せたんだ、喜ぶべきだろう。そう言い聞かせても身体はちっとも反応してくれない。まるでここに留まりたいとでも言っているかのようだ。仕方なしに無理矢理足を踏み出し振り返らずに部室を出た。
頭は確かにすっきりした筈なのに突き放したのは自分なのに、依然ざわつく心臓の雑音が邪魔でうるさくて少しだけ喪失感に似た何かが全身を侵食した。
ポジティブ系意気地なし
恋心に蝕まれた俺にどうか気付きませんように。
fin.
2012.06/02