犯人は目の前
久しぶりに帰省したからといってすぐ会えるわけじゃないことは承知済みだ。いつものようにおばさんに断って幼馴染の兄貴の部屋に入り椅子に腰掛ける。普段はこちらには帰らないんだけど、どういう風の吹き回しか今日は実家に帰ると連絡が来た。夜中の2時半頃に。何度も海外遠征はしているだろうに学習能力が無さ過ぎて困る。いい加減時差というやつを覚えて欲しいものだ。健全な中学生はもう寝てる時間だってば。
何の遠慮も無しにベッドに転がり我が家のようにごろりと天井を見上げる。風丸家の住人はうちの母さんみたいに口うるさく言わないし静かだし、14年余りでこの家は俺にとっての隠れ家もとい避難場所と化してしまった。隣だし家で待っていても良かったんだけどこちらから出向いてやろうと、心優しい霧野少年は考えたんだ。帰ってきたら寝不足の件を詫びてもらって海外サッカーの話について語ってもらわねば。
しかし、だ。青で統一された部屋を見回して起き上がる。物心ついた頃からこの部屋と持ち主には世話になっているが風景が全くと言っていいほど変わっていない。小学生のころベッドの下や押し入れの隙間なんかを探ってみても出てこないのだ。
「どこに隠してるんだろうなあ」
まるで如何わしい本を探してる思春期の男子のような言い方だけど、まさにその通り。俺が知る限りの隠しそうな場所は一通り探した、けど、見つからない。そんなの絶対おかしい。やつがそんな少女漫画に出てくるような不健全で汗がキラキラしてて誰にでも分け隔てなく接している完璧人間なはずがな…いはず。
つまんないの、と誰もいない部屋に自分の声だけが木霊する。ふと本棚の上に目線を移すと、見慣れないものが日光に反射されてきらりと光っている。赤渕が特徴的な眼鏡だ。あいつそんな目悪くなかったはずだけど。一瞬ファッションに目覚めたのかとも思ったけどあの服装を思い出し首を横に振る。ないない、絶対ない。
綺麗に整理整頓された棚のアルバムを引き出し開いてみる。やはり中学の写真が多い。何度か見ているから読み流しているとその中にひとつだけ軽く糊付けされて開かないページがあることに気付いた。これは見落としていた。もしかするかもしれないとゆっくり引き剥がしてみると、真ん中に一枚だけ貼られた写真があるだけだった。期待が外れて肩を落とすが、ふと一緒に写っている人物が目に入る。
誰だろう。他の人の影が映っていてよく見えない。あいつと、隣に写っているのは女生徒みたいだけど背中を向け親指を突出し、アメリカの、誰だっけ、変な形のサングラスをかけた選手のようなポーズを取っている。少し大きめのユニフォームを着た女子の背番号は、2。これが噂の彼ユニというやつかと思うとなんて青春した中学時代をやつは送ってきたのだろうと少々嫉妬してしまう。何だよ、嬉しそうに肩に手置いちゃってさ。
自分だって好きな人くらいはいる。問題は相手だ。歳が離れてる上に向こうは俺のことなんて微塵も恋愛対象に含んではくれないから前途多難の真っ最中。下手したら一生一方通行のままかもしれない、その可能性の方が高い。
いいや、うん、やめよう。何が悲しくて人の初恋を詮索せにゃならんのだ。そっとアルバムを閉じると最後のページから写真とは違う薄い本が俺の足元に落ちる。何だろうか、屈んで拾い上げようとした瞬間、下の階が騒がしいことに気付く。
「すみませんいきなり」
「いいよ、初めてじゃないし」
やばい、非常にまずい。大人しく待っていたならまだしも部屋はそれなりに(主に本棚の裏やベッドの下が)散らかっている。しかも客連れか。二つの足音が近づいてくる中、何かこの窮地を脱する方法は無いかと普段ゲームでしか使わない脳をフル回転させながら探す。一、ベッドの下に隠れる。二、自首する。三、ゲーム借りようと思って探してた。よし、三でいこう。
「お邪魔しま…」
「三です!!」
扉が開かれ敵襲と哀れやばったり対面。うっかり口が脳内の単語しか発言しなかったお陰で空間は数秒静寂に包まれる。誰も口を開けなかったのは、各々目の前の惨劇に驚きを隠せなかったからだと思う。
「き、霧野君?!」
「おおおうお音無先生どうしてここにいるんで」
「俺の部屋で何してたんだお前…」
会話が全く噛み合わない三人が状況把握する頃には、既に日が落ちていたという。
犯人は目の前
全員に事情聴取を執り行います
fin.
2012.05/13