※プレイ中クリア前





不思議な感覚だった。
異世界だということは理解できていたのに、体を伴うと途端にその理解はあやふやになってしまった。キュキュの知っている物語を、キュキュが時間と体を伴って体験するなんて、不思議で不可思議の言葉に集約されてしまう。
そもそも、そういうものだと知っていたけれど、それは不思議な感覚だった。

「ルカ 危ない!」
「キュキュさん?!」

軍人であるキュキュは、人より幾らか優秀で、それから人より幾らか他者に甘い。きっとこの時キュキュがルカを助けなくても、ルカがルカである以上運命は、ルカを助けていたのだろうと思う。しかし、キュキュは物語のエキストラである前に、ルカの友人で、そんなことに気付ける程に頭が優秀なわけでもなく、ただルカを助けなければとそればかりだった。
だから、魔物の爪がルカに迫るのを見ていられず、ルカを思いきり突き飛ばして、代わりに我が身を差し出してしまった。悲鳴のようなルカの叫びに、キュキュは申し訳なくて堪らなくなった。
意識はけれど、そのまま沈んでいってしまった。こんなことなら、もっと格好よく助けてあげるんだった、とその瞬間に思った。



次に目を覚ましたのは温かいベッドの上だった。
傍らでは泣き腫らした顔をしたルカが、椅子に座ってキュキュを見つめていた。目覚めたキュキュに顔を歪めて、肩を震わせながら目元を拭う。固い生地のルカの服では、そうやって拭っては赤い目元が更に赤くなるだろうと思うのに、キュキュはそんなルカを見ているしかなかった。どうしてか、止めるのが惜しかった。

「ルカ 無事?怪我 ないか?」
「っひぅ、くぅ…っ…………ぼ、くより、キュキュさんが…!そんな、大怪我して、た、すけて、もらっても…嬉しくないよぅ!」
「ごめなさい でもキュキュ 丈夫 ルカ怪我なくて よかた 嬉しい」
「ちがう、ちがうよ…っ」
「ルカ?」

ルカがぼろぼろと涙を零しながら布団を握りしめ、首を振る。違う、と笑いかけるキュキュとは正反対に、悲壮な顔をして何度も首を振って涙を拭った。ひっきりなしにしゃくり上げるものだから、呼吸が辛そうで、申し訳ないなとキュキュは思った。
キュキュのために、ルカが泣いている。
キュキュを思って、ルカが泣いてくれる。
物語の主人公が、キュキュのために、キュキュと言うおかしな存在が傷つくことを悲しんでいる。ああ、温かいなと、無性に嬉しくなった。キュキュのためだけの涙が、ルカから零れ落ちるだけの優しさがただただ嬉しくて、キュキュはもう一度笑った。

「ルカ優しい わたし 嬉しい 大好き 守れてよかた」

体調が万全であれば、キュキュはこの喜びをハグにして表していたことだろう。それほどに、嬉しくて心が温かかった。
ルカはまだ言い足りないように非難がましい目をしているけれど、それが決してキュキュを嫌ってのことではないとわかる。むしろキュキュを大事に思ってくれているからこその非難だ。それがくすぐったかった。
ずっと不思議な感覚だった。
どんな人間か知っているつもりだった猛将の転生者は、しかしキュキュが思うよりずっと弱々しくて、むしろ儚くて。豪快な笑いよりも繊細な微笑みが似合って、剣よりも本の方がしっくり来る。
それなのにおおらかなところや他人を心を寄せる性情は予想とそう違わなくて。何よりも、ずっと人間らしくて可愛らしいとすら思う。
物語に見ていた形はそれで気に入っていたのに、今のルカの方がもっともっと、比べるのも馬鹿馬鹿しいくらいに大好きなのだ。

「キュキュさんだって、怪我して…ほしくない、よっ…ぼく、も…すきだ、から…っ…守るからっ」

ぐずぐずと鼻を鳴らしながら器用に怒って見せるルカが、キュキュはなんだか愛しくて仕方なかった。
キュキュは何度でも同じことがあればそうするだろうとわかっていたけれど、それでもルカが泣くのなら、ルカを助けて自分も無事でいられるだけの度量をつけようと思った。キュキュのためだけに泣かすには、ルカの涙は温かすぎたのだ。





悪いことして叱られて
叱るあなたが半泣きで







20120202
by207β


キュキュかわいい。片言男前万歳!





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