夜這い。 題名が酷いとかいわないの。 |
腹部の圧迫感で、綺依は目を覚ました。重い。 何かが腹の上に乗っているらしい。 首をもたげ、暗闇に目を凝らすと、人の形が浮かび上がってきた。 横からは人の気配が感じられない。 そこで綺依は、確信を持って名前を呼んだ。 「琉依?」 はっと息を呑む音が聞こえる。 人影が微かに身じろぎした。 「何してんの?」 先程より語調を強めて尋ねる。 それでも影は口を開かない。 暗闇に段々と目が慣れ、綺依には腹上の影が先程よりもはっきりと見えるようになってきた。 上に乗っているのは、間違いなく琉依である。 じーっと見つめていると、顔を上げた彼と目が合った。 「降りろ、重い」 ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。 琉依は泣き出しそうな顔をしている。 しかし、頑として口は開かない。 そこまでして、一体何が目的なのか。 眉をひそめて、綺依はおもむろに起き上がった。 それにつられて、琉依は布団の上に落ちる。 「うぅ……」 にじにじと自分の寝ていた場所へ戻り、枕に顔をうずめる琉依。 どうも不貞腐れているらしい。 綺依はわざとらしくため息をつくと、琉依の首を掴んで起こした。 「何がやりたい?」 顔を覗き込んで尋ねる。 この訊き方に、琉依は弱かった。 目の周りを羞恥で紅く染め、 「おにぃのバカぁ」 か細い声でそれだけ答えると、ぽかぽかと綺依を殴る。 「はぁ?」 呆れ果てたように綺依は首を振った。 我が弟ながら、何を考えているのかが本当に分からない。 綺依の体に顔を押し付けている琉依を見下ろして、今度は口調を和らげて話してみる。 「怒ったり呆れたりしないから、何がやりたかったのか言ってみろ」 すると恐る恐る顔を上げた琉依は、潤む瞳を揺らしながら訊いた。 「ホントに?」 ああ、と頷きを返す。 ごしごしと目を擦って、彼はやっと話し出した。 「おにぃが最近構ってくれないから、だから待ってるだけじゃダメなのかなって思って……」 言われて綺依は、ここ数日の自分の様子を振り返る。 彼の言う通り、確かに最近は忙しくて琉依ともろくに会話をしていなかった。 綺依はふっと口許を緩めて、琉依の頭をなでる。 「寂しかったのか」 「――うん」 しおらしく首を縦に振る琉依。綺依はそんな彼を抱き締めた。 「じゃあ、明日は一日構ってあげる」 ふわっと琉依の顔に笑みが広がる。 そして綺依にぎゅっと腕をまわした。 「おにぃ、本当は大好き」 「知ってる」 琉依の囁きに、綺依はふふっと笑って答えたのだった。 -終わり- - - - - - - - - - - 弟くんを可愛くすることに力を注ぎすぎました← |