05

自分の進路にもあまり関心のない綺依の面談は、ほぼ話が進まずに終了した。
その上での琉依の進路希望に担任は、次の進路相談までにもう少し具体的な進路を考えてくるように声をかけることが精一杯だった。

一方、琉依が教室を出たあと、達幸は机に向かう綺依をジッと見つめていた。
読みかけの漫画のことなどすっかり忘れて、今彼の頭の中を占めるのは妙な正義感であった。
綺依は琉依を困らせる悪いやつだから、綺依から琉依を守らなければならないと思い込んでいた。
綺依はというと、もちろん達幸の視線には気づいていた。実害は無いのだし、いつもなら気にも留めないのであるが、見つめているのが達幸ーー綺依にしてみれば、琉依と親密な関係にある男ーーだとなると、話は違う。元々不機嫌だった上に琉依の成績のことが重なり、更に達幸の視線が加わって、綺依の不快指数は一気に跳ね上がった。綺依は椅子を少し下げて斜め後方に振り向いた。

「なに」

不機嫌さが滲み出たやや強めの口調で、短くこの二文字を発する。綺依が他人に話しかけることは珍しく、この声が聞こえた生徒たちは驚きから口を噤んで綺依を見た。ほんの一瞬教室が静まり返る。声をかけられた達幸も、まさか何か言われるとは思わず束の間呆けていた。
また教室内がガヤガヤし始めてからハッと我に返り、達幸は立ち上がった。そのままつかつかと綺依の席に歩み寄る。机の横に立った達幸を冷ややかに見上げて、再び綺依は「なに」と口にする。彼の不機嫌さと口調に達幸は少し気圧されそうになる。それでも琉依のために自分が動かなければと思い直し、綺依1人に聞こえるくらいの大きさの声で、だが感情を込めて言った。

「もっと琉依を大事にしろよ! 双子なんだろ!」
「……は?」

今度は綺依が呆ける番だった。何を言うのかと思えば、琉依を大事にしろ? どうしてそんなことをこの男に言われなければならないのか。綺依からしてみれば、自分は充分に琉依を大事にしているつもりであるし、他人に家族のことをとやかく言われる筋合いは無い。

>>続く


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