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綺依は琉依の保護者か? という問いを否定することは、琉依には難しかった。何年も兄弟二人で暮らしていた中で、綺依は琉依の親代わりを務めていたようなものだったから。二人暮らしではなくなったとはいえ、その感覚はすぐには抜けない。
達幸から視線を外し、自分の机をぼんやりと見る。机上には先ほどまでの授業で必死に取っていたノートと、端に追いやられた教科書が出されたままになっている。そこに散らばる消しゴムかすを見つめて、琉依はぎゅっと眉を寄せた。
琉依にももちろん遊びたいという気持ちはある。今まで勉強より遊ぶことの方が多かったのだから、いきなり勉強に専念しろというのも難しい話だ。一方で彼は、琉依の状況を知った綺依の反応から、自分が綺依にまったく追いつけていないことを悟ってしまった。このまま綺依との差を埋められず置いていかれることを受け入れるか、綺依と肩を並べるために勉強に集中するか、二つに一つなのはわかっているが、まだ選択できないままでいる。
「息抜きだって必要だろ」
目を伏せる琉依に達幸が声をかけた。
ぐるぐると悩む琉依が、彼の目には辛そうに映った。琉依は真面目だから、綺依に言われたことを疑わず素直に受け入れてしまう。自分が助け舟を出してあげないといけない、と思った。
「え?」
「たまには勉強のことを忘れて遊ぶのも大事だって言ってんの。朝から晩までずっと勉強ばっかりしてたら、いつかパンクするぞ」
「そう……かな……」
「言われたとおりに勉強するから、時々は遊びたいってあいつに言ってみれば? というか、そんなに毎日頑張ってるなら何かご褒美とかくれない?」
達幸の言葉に、「うーん」と琉依が唸る。机の上の消しゴムかすを手で払って床に落としながら
「ご褒美かぁ。そういえば何ももらってないかも」
「うわ、釣った魚に餌をやらないタイプか」
顔をしかめる達幸。哀れむように琉依の頭をぽんぽんと叩いた。
「よくそれで今まで勉強頑張ってこれてるよな。ちゃんとご褒美は請求しろよ」
せっかくの達幸の助言だが、あのストイックでスパルタな綺依がご褒美をくれたり息抜きすることを許してくれるだろうかと思い、琉依は生返事をする。それに今は、ご褒美をもらえるような結果を出しているわけでもない。まだ早いとも言われそうだ。
そんな琉依の葛藤を察したのか、達幸が付け加えた。
「ま、言うだけタダなんだからさ」
>>続く
今年の9月にあるコミティア145にてプルケリマ完全版を頒布予定です。
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