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いかにも、授業中は板書を忠実に写し取ることに必死で頭では理解できていない、というようなノートだった。
彼らの数学の担当教師は一から十まで内容を全て板書するが、それは整然とした板書ではなく空きスペースにどんどん書いていくタイプで、なおかつ黒板がすぐに埋まってしまうため板書を消すスピードも早い。
琉依のようにその板書を全て写そうとすると終始ノートを取り続けなければならず、もたもたしていると消されてしまうためかなり大変である。

「これ読んで意味わかるのか?」
「うーん、多分?」
「なんで疑問形なんだよ……」

勉強を教える前に、まずノートの取り方から教えるべきなのかと綺依は嘆息する。
仕方なく自分のノートを鞄から出して広げ、それを見ながら琉依が解けなかった残りの問題を教えることにした。
綺依のノートを見た琉依は、他人事のように「すごーい、見やすい!」などと口にする。情報量の多すぎる板書から、復習に必要と思われる重要な箇所を抜き出して書かれた彼のノートは、几帳面に整理されていた。

綺依の家庭教師は、家族が帰宅し夕食やお風呂を挟んで続けられた。
家族が過ごすリビングという衆人環視の中、琉依は下手に投げ出すこともできず、宿題とその日の復習が終わったのは0時を過ぎた頃だった。
休まることなく頭をフル回転させていた琉依は、勉強から解放されるとカーペットの上にぐったり身を投げ出した。
その様子を見た母親が、疲労困憊の琉依には目もくれず、黙って勉強道具を片付ける綺依に声をかけた。

「いきなりこんなにいっぱい勉強させなくてもいいんじゃない?」

その言葉に、琉依が手足をバタバタさせて同調する。

「そうだよ、おにぃスパルタすぎるよ」

非難を受けた綺依は、じろりと2人を睨みつけた。

「学校から出された宿題と、今日の授業の復習しかしてないんだけど。
これで量が多いとかスパルタとか言ってるから、あんな成績になるんだろ」
「むぅ……」
「まあ宿題は最低限必要だし、復習もやっておいた方が後々良いから、綺依くんの言うことも一理あるよね」

痛いところを突かれ、何も言い返せずむくれる琉依を亮さんが宥めようとするが、言っていることは綺依の肩を持っていて、琉依はますます口を尖らせた。
母親に肩をはたかれ、亮さんは小声でごめん……と謝る。
一方、綺依は琉依の肩を持つ母親が、これまで何もしてこなかったくせに、こういう時だけ母親面して琉依を甘やかすことに不満を募らせた。
琉依の家庭教師をして成績を上げさせる綺依の計画は、初日から前途多難のように見えた。


とはいえ、綺依の家庭教師はその後も毎日続く。不平を言いながらも、琉依は綺依に従って勉強していた。
何かと言い訳をしては怠けようとする琉依へ、綺依は事あるごとに「俺と同じ大学に行くんだろ」と投げかける。そう言われると琉依は弱い。綺依に言われるがままである。

最近、放課後になるとすぐ綺依とともに下校し、遊びに誘っても断るようになった琉依に理由を尋ね、綺依の家庭教師は達幸の知るところになった。
高校3年生の今から詰め込んだところで、そうそう賢くなるものではないだろうと達幸は否定的である。
まだ進級したばかりの春。夏に向けて最後の部活動に力を注ぐ生徒も多く、周囲は受験モードとは言い難い。
残り少ない高校生活を謳歌すべく、今のうちに遊んでおく方が時間の有効的な使い方ではないだろうか。
双子だからといって、頭の構造が同じわけでもないだろうし……。
そう思っていると、知らず口に出していたらしい。ばっちり聞き逃さなかった琉依は、ジトッと達幸を見る。

「ごめんって、言い過ぎた。でも、ほんと今のうちしか遊べないんだから、たまには遊びに行こうぜ」
「綺依が遊んでも良いって言ったら遊ぶ」
「なんであいつの許可がいるんだよ、保護者か? 高校生にもなって」
「だって黙ってサボったら絶対怒るもん」

そこで会話は途切れた。

>>続く

今回から隔週土曜更新を目指そうと思い……。
そろそろ話を前に進めたいので、そのうち時間がばびゅんと飛びます。
ちなみに九葉は復習はテスト前にしかしないタイプでした。宿題は学校と電車内で終わらせてた。
誰かお兄ちゃんにカテキョ代払ってあげてください。

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