07
「ねぇたっちゃん、何があったの?」
綺依を否定するようなことを言われるのを琉依が好まないことは達幸も知っている。その上で、先ほどまで綺依に言おうとしていたことを琉依に言う勇気は彼には無かった。それにもし仮に言えたとしても、琉依はいつものように「綺依は優しい」と返すだけなのだろう。
「いや……いいんだ」
琉依の問いに首を横に振って、達幸は踵を返した。席に戻る友だちの背中を困ったような表情で見送った琉依は、既に興味を失ったように宿題を解き始めた綺依を見たあと、先刻琉依を捕まえた女子の集団へ目をやった。見ると、何人かが手招きをしている。琉依がそれに従うと、再び女子陣に取り囲まれた。
「それでそれで? 何だったの?」
心配そうな、しかし内心の好奇心を隠しきれていない様子で質問される。
「全然分からなかったんだけど、たっちゃんが綺依に、僕のことをもっと大事にしろって言ったんだって」
首をかしげながら琉依は答えた。すると女子達は声をそろえて
「あー、なんか分かるかも」
と頷く。琉依が更に首をかしげると、口々に意見が述べられた。
「誰に対してもそうなんだけど、るいくんにも兄弟とは思えないくらいつっけんどんだよね」
「そうそう、いつも無表情だし。何考えてるか分からない」
「るいくんに意地悪って感じ」
女子の口から語られる綺依のイメージに、琉依はいつしか目を丸くしていた。他人から綺依がどう見えているのか、複数人からまともに聞いたことはこれが初めてだった。どうやら周りには綺依が琉依にとって悪者のように見えているらしい。琉依は否定も肯定も忘れて、ただただ目の前の会話を黙って聞いているだけだった。
そのうちにチャイムが鳴り、生徒達はてんでに自分の席へと散った。戻ってきた担任によって短いホームルームが行われ、放課後となる。琉依は急いで帰りの準備を済ませ、さっさと帰りかけていた綺依と並んで帰路についた。再度達幸と綺依のことを訊こうと、琉依は綺依に問いかける。
「たっちゃんは何であんなことを言ったの?」
「知るかよ」
返答は短かった。
>>続く
双子第一章(お兄ちゃんと弟くん)を書き直そうと、読み返すところからはじめました。
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