*甘く淡く苦く

とあるバレンタイン、琉依が紙袋いっぱいのチョコを抱えて学校から帰ってくると、郵便受けに小包が二つと一通の手紙が入っていた。紙袋で両腕が塞がっている琉依は指先をうんと伸ばして小包を掴もうとしたが届かず、うんうん唸りながら郵便受けに突っ込んだ手をバタバタさせている。琉依が格闘しているうちに、少し遅れて綺依が帰ってきた。腕からずり落ちそうな紙袋を必死に抱え、右手を郵便受けに伸ばす琉依を一瞥すると眉ひとつ動かさずに玄関を開けた。

「あっ! おにぃちょっと待って、助けてよ!」

家に入ろうとする綺依を、琉依は慌てて呼び止める。が、綺依は振り向くことなく

「荷物が邪魔なら、家の中に置いてから取りに行けばいいだろ」
と言って、そのまま家に入っていった。
「……そうかも」

チョコがあふれそうな紙袋を見下ろしてポツリ呟き、琉依は綺依のあとを追って家に入った。リビングにドサっと荷物をおろして、改めて郵便受けの中身を取りに行く。手紙と小包を出してみると、手紙の宛名は綺依と琉依になっていた。裏返して差出人を確認するが、そこには名前が無かった。琉依は首を傾げつつ、小包と手紙を手に家の中へ引き返した。リビングに戻ると、綺依は自室に行ってしまったのだろうか姿が見えない。キョロキョロと辺りを見回した琉依は、小包を二つ机の上に置いて、逡巡してから手紙の封を切った。

「バレンタインなので、読者の方からのチョコを贈ります……?」

手紙に書かれた一文目を読み上げてみる。琉依には意味がよくわからず、先を読み進めた。それによると、どうやら一緒に郵便受けに入っていた小包はそれぞれ、綺依と琉依へのバレンタインのチョコレートであるらしい。しかし綺麗に包装された見た目にはどちらが綺依へのチョコレートで、どちらが琉依へのチョコレートなのか区別がつかない。二つとも開けてみて確認すればいいのだが、他人のものを勝手に開けてはいけない、ということは琉依にもわかっているので、先に綺依を呼びに行くことにした。
綺依が居るはずの自分たちの部屋に行こうと琉依が廊下へ出たとき、ちょうど向こうから綺依が歩いてきた。これ幸いと、琉依は綺依に声をかける。

「ポストに入ってたの、おにぃと僕宛のチョコだって!」
「は?」
「ほら見て、ちゃんと書いてあるでしょ?」

 琉依は綺依に駆け寄って手紙を渡し、それを読むように促した。綺依は素直に受け取ると、手紙の文面すみずみまで読んだ。

「何このメタい手紙」
 呆れ半分でそう漏らす。すかさず琉依が諫めて
「おにぃダメだよそういうこと言っちゃ! せっかく僕たちにくれたんだから。ねっ、早く開けよ」

と綺依をリビングに引っ張っていった。渋々付いてきた綺依の前へ、琉依はそわそわしながら小包を一つ取って置き、自分も残りの一つ取る。綺依に目配せしてから恐る恐る包装をはがしていくと、中からピンク色のウサギがたくさん描かれた長方形の箱が顔をのぞかせた。かわいい! と叫びそうになるのをグッとこらえ、琉依は綺依の方を見る。彼もちょうど包装をはがし終えたところだった。中から現れた箱は、クロコダイル柄で綺麗な青色をしていた。

「手紙に動物の方が琉依で青いのが俺って書いてあったから、自分で開けたのが自分の分だな」

 琉依の箱をチラッと見て綺依が言った。琉依は首を縦にぶんぶん振ると

「開けていいよね!」

口に出すより早く箱を開けた。琉依へのチョコレートはヒヨコとハムスターとウサギの顔の、カラフルなものだった。琉依はこれを見た瞬間、今度は抑えきれずに叫んだ。

「かわいい〜!」

 はしゃぐ琉依を見て、高校生にもなって子ども向けみたいな動物のチョコレートをもらって喜びすぎだろと思いながら綺依も箱を開けた。こちらは丸いトリュフが並んでいるものだったが、その中に二つ、ハートの形をした黄色いチョコレートがあるのを認めた綺依は、途端に眉をひそめた。

「あっ、おにぃのはかっこいいねー。ハートもある!」

 覗き込む琉依に

「……欲しいならハート型のはお前にやる」

と静かに返して、丸いトリュフを一つつまんだ。

「えー、せっかくのハートなのになんで要らないの?」
「バレンタインにハートのチョコは重い」

 即答を残し、トリュフを口の中で転がす。紅茶の味のそれは爽やかな香りをなびかせ、たちまち滑らかに溶けていった。

「もっと味わって食べなきゃ――」

開けてすぐにチョコレートを食べた綺依を咎めるように開いた琉依の口を、綺依はすばやく自らの唇でふさぐ。そして、ほどけたトリュフが絡みついた舌を琉依の口内に滑り込ませた。琉依の舌を捕らえてチョコレートの味を彼に移すと、音を立てて唇を離す。

「……ちょっと苦い」

 顔をしかめてポツリ呟いた琉依を見て、綺依は笑った。

「お子様にはまだわからないんだよ」
                                                          ―終―

読者の方から双子宛にチョコレートを頂いたので、そのお返しに書きました!
頂いたチョコレートはどちらもゴンチャロフのでした。
文中の通り綺依へはトリュフと黄色のハートのチョコが入ったもの。琉依へは可愛い動物のチョコの詰め合わせでした。
ありがとうございました!



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