▼ *双子年末年始SS '17〜'18
母親が出すための年賀状を印刷しながら、今年の干支は何だったのだろうかと綺依は考えていた。
正直、来年の干支もパッと思い浮かばなかったが、年賀状イラストのフリー素材を見ると犬がこちらを向いてヘラヘラ笑っているものばかりが目につくので、来年は戌年なのだろう。
じゃあ犬の前は何なのか。
やはりすぐには出てこないので、子から順番に数えていると、まだ幾分も行かないうちに後ろから声をかけられた。
「宛名は全部印刷できたの?」
思考を中断されたことと、声の主が自分にこの仕事をやらせている母親であったことに小さく舌打ちをして、綺依は無愛想に「まだ」とだけ答えた。
確かにさっきまでは印刷していたし、今はプリンターが止まっているのだが、それは途中で年賀ハガキが足りなくなったからである。
追加のハガキを買ってくると言って出かけた亮さんの帰りを待つ間、年賀状のデザインを考えていたのだった。
自分の旦那がハガキを買いに出たことも知らないのかよ。母親が自分のこと以外にあまり関心が無いのは昔から変わらない。
よく再婚できたなと呆れつつ、パソコンの画面に集中を戻した。そういえば、今年の干支を思い出そうとしていたんだった。
まあもう過ぎていく年だから思い出せなくても問題は無い。考えるべきは来年のことである。こんなもの、デザインを適当に選んでさっさと終わらせてしまおうと思い、綺依は画面をスクロールさせる。
カラフルで可愛らしい絵柄が多い中、目に付いたシンプルな白黒のデザインを選んでクリックしたとき、今度は別の声が横から聞こえてきた。
「えーやだ、そんなお葬式みたいなの」
隣を睨み付けると変なぬいぐるみを抱いた双子の弟がいた。よく見ると、頬に枕カバーの皺の跡がついている。
「僕もっと可愛いワンちゃんの絵がいい」
「お前が出す年賀状じゃないだろ」
「そうなの!? おにぃ僕の分も作ってるんじゃないの……?」
頼んできてもいないのに、どこまでおめでたい頭をしているのか。綺依は嘆息して、カーソルを別のイラストの上に移動させた。今度は白黒ではないものの、やはりシンプルなデザインである。
「自分の分の年賀状も作ってほしかったら、何をすればいいかわかってるよな」
そう言うと、琉依の顔は不満そうに膨れた。
「普通に、ついでにやってくれればいいのに……」
「知らねえよ」
素っ気なく返して、綺依は作業を続ける。選んだ絵の上に簡単な挨拶の文と住所氏名を打ち込み、全体のバランスを整える。
その様子をしばらくチラチラと見ていた琉依だったが、観念したように口を開いた。
「僕の年賀状も作って下さい、お願いします」
綺依は振り返って琉依を見ると、
「ハガキ、無いから人数分買ってこい」
「えぇっ!? うー、わかりました……」
琉依の喜びかけた顔が瞬く間にふくれっ面に戻った。
しかたなくハガキを買いに出た琉依と、ちょうど帰ってきた亮さんが玄関ですれ違い、代わりにもう一度買いに行くと言う亮さんと自分が行かなければダメだと言う琉依が軽く言い合いになっているのを遠くで聞きながら、綺依はまた年賀状のデザイン一覧を眺める。
可愛いワンちゃんがいいなどと琉依が抜かしていたことを思い出し、眉をひそめて最初に選んだ絵をクリックした。
「年賀状の絵なんて誰も見ないから何でもいいんだよ」
呟いて、宛名の印刷を再開するために別の画面を開く。琉依はようやく家を出たらしい。
彼が戻ってくるまでに彼の年賀状のデータを作ってしまおう。そうすれば琉依も変更を言い出しづらいだろう、と考える綺依だった。
-終-
2017〜2018年の年末年始にかけてのSSでしたー。
母親が自分以外のことに無関心だと綺依は言いますが、血は争えないんですよね(苦笑)綺依の関心の方向が自分ではないというだけで。
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