▼ *floralia
※まだ本編では達していない(達するのかも分からない)未来のお話です。でも三つ子の魂百までというように今とほとんど変わってないです。
8月も終わりが近づいてきた頃、綺依は頭を悩ませていた。彼と双子の弟、琉依の誕生日は明日8月28日に迫っていた。もう20回近く誕生日を過ごしてきたのだ。いい加減、琉依への誕生日プレゼントのネタは尽きてきていた。このショッピングモールも朝から何周したかわからない。夏休みゆえの子供連れの多さに辟易しながら、綺依はしらみつぶしに店をのぞいていた。
琉依も明日で20歳である。成人を迎えるのだから少しは大人っぽくなったのかと思うと、相変わらず昔のままだった。そう言う綺依も、昔から全然変わらないと琉依は言うが。昨夜琉依に欲しいものはないかと訊いてみたが、寝転がってテレビを見ていた琉依は話を聞いているのか聞こえていないのか定かでなく、全くあてにならなかった。まあ特に欲しいものはないのだろうと解釈した綺依はそれ以上聞かずに、こうして今日プレゼントを買いに来た。そして悩んでいるのである。
日用品、服、雑貨……と色々まわった結果、食料品のような消えものが良いだろうかとも思ったが、ケーキを作ることは決まっているし、他の食べ物にしても作れるなら作ったほうが良いと考えてしまい、一向に決まらない。それなら何か琉依の好きな料理でも作ろうかと買い物かごを取りに店の入り口まで戻ったとき、やけにカラフルな店先が目に入った。花屋である。プレゼントに花束をあげるのは大人っぽいかもしれない。そのとき綺依は思った。いつもと趣向を変えて、今年は花を贈ろう。生花を買うのなら今日ではなく、明日の誕生日当日の方がいい。そう綺依は自動ドアの前に積まれていた買い物かごから1つ取り、必要な食料品の買い物だけ済ませると、ショッピングモールを出た。
一日経って、誕生日当日の朝、綺依に渡すプレゼントを買うと言って出かけた琉依を見送ったあと、綺依は家の近くの花屋を訪れた。新しくて広めの店内には、なじみのある花から見たことがない花まで多種そろっていた。その様子にやや圧倒されながら、プレゼントによさそうな花を見繕っていく。だがなかなか琉依に合いそうなものが無く、とりあえず目の前にあったガーベラを覗き込もうとしてふと顔を上げると、見慣れた顔が視界に入った。
「琉依……?」
「え? あれ、おにぃだ!」
そこにいたのは、プレゼントを買ってくると言っていた弟だった。話を聞くに、彼もプレゼントを色々探してみたがピンとくるものが無く、花屋が目に入ったので花束をプレゼントしようと考えたらしい。
「双子って本当に同じこと考えるんだねー!」
と、綺依の隣に移動した琉依は他人事のように言う。
「でもね、おにぃに合う花が見つからなくて……真っ赤なバラも変でしょ?」
「俺も、琉依に合うのがなくて困ってた」
「やっぱり? 何でだろ、男の人にお花贈るのが変なのかな」
合点の行かない顔の琉依を見て、綺依が呟いた。
「ここにあるたくさんの花をもってしてもできないほど、お前が魅力的ってことなんじゃないの?」
言われてすぐ綺依の顔を見た琉依は、彼の顔が一瞬サッと紅潮したのを見逃さなかった。そして笑って頷いた。
-終-
久しぶりな気がする綺依と琉依の誕生日SS。当日に上げれてハッピー。
2人とも誕生日おめでとうー!
テーマはアリスさんから頂いた「お前に似合う花なんて見つからない」でした。
あ、題名はラテン語です。
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