▼ *Servant Play
「今年のハロウィン、友達とパーティーすることになったんだけど、みんなも来ない?」
町中がハロウィン一色になって久しい10月の半ば、夕食の席で亮さんがそう持ちかけた。
「いつやるの? パーティー僕も行きたい!」
真っ先に食いついたのは琉依。
「今のところ、ハロウィン前の土曜の午後だって。人数が大体決まってから会場押さえるって幹事が言ってたから、場所はまだ決まってないみたいだけど」
「休みの日はゆっくりしたいから、私は遠慮しとくわ」
そう断った母親に続いて綺依も
「俺も勉強があるし……」
と言いかけた言葉は、琉依の明るい声にさえぎられた。
「じゃあ、僕とおにぃと亮さんで行ってくるね! 土曜日何も無いし、おにぃも行くでしょ?」
「え、いや、俺は……」
「うん、決まりね!」
話を聞かない琉依に押し切られ、綺依も2人とパーティーに参加することになってしまった。パーティーはどうやら仮装パーティーらしく、各自で仮装することがドレスコードなのだと亮さんは言う。そう聞いて綺依は更に面倒なことになったとげんなりし、琉依は何の仮装をしようかと今から思いを巡らせていた。
その数日後。友達と帰るからと言って綺依と分れた琉依は、大きな袋を抱えて家に帰ってきた。その袋は駅前にある、安値で何でも売っている大型スーパーのものだった。
「何それ」
嫌な予感に顔を引きつらせながら、綺依は尋ねる。
「パーティーの服買ってきたよ! 友達と選んできたんだー」
琉依は荷物を床に下ろすと、袋を開けて中身を広げ始めた。
「これはまず僕の分。メイドさんなの! 一度着てみたかったんだよね!」
「……性別間違えてるな」
琉依が買ってきたメイド服のパッケージには、売れないアイドルのような容姿のモデルが、商品を着て微笑んでいる写真が大きく載っていた。もちろん、女性である。そして、どう見てもミニスカートだった。
「でねでねっ、こっちがおにぃの分!」
続いて琉依が取り出したのは、黒色のYシャツと青いベスト。一見すると普通だが、ベストはやたらテカテカしていて光沢がある。
「今度は何なんだ」
綺依の予想としては、琉依がメイドならおおかた自分には執事かご主人様をやらせるだろうというものだったが、琉依が持っている服はそのどちらにも当てはまらなさそうであった。
「おにぃはホストなの!」
「……ホスト」
それはいわゆるホームパーティー等の主催者のことか、という質問は飲み込んだ。服装から見て、店で主に女性をちやほやする方のホストであることは明白である。しかし、何故メイドに対してホストなのか。
「何でホスト……」
「ホストってカッコいいでしょ? おにぃ絶対似合うもん」
そんなチャラついた格好が似合うと言われて綺依としては複雑だが、それは別として仮装パーティーでホストの仮装をするなんて話は聞いたことが無い。綺依は満面の笑みを浮かべる琉依と、彼が持っている衣装を見比べた。
「琉依はホストが好きなのか?」
「好きだよ? かっこいいし、一回行ってみたいなー」
「ああそう……」
既に買われた衣装の勿体無さと、嬉しそうな琉依から見えない圧力を感じ取った綺依は、それに負けてホストの仮装をするしかなかった。亮さんには当日まで内緒にしておいてと忠告し、琉依は衣装の入った袋をクローゼットの中に押し込む。
「絶対、ぜぇーったいにナイショだよ!」
釘を刺されなくても自分がホストをやるなんて言うわけがないと思いながら、うなずきを返した。ただ、まともな人の意見も聞いてみたかったので、しばらくして帰宅した亮さんに、綺依は尋ねてみた。
「ハロウィンパーティーの仮装……亮さんは何を?」
亮さんは少し意外そうな顔をして綺依を見る。そしてすぐに、困ったように眉根を寄せた。
「それがまだ全然考えてないんだよね……。もう何回もやってるからネタが尽きちゃって。ナースとかポリスとか、王道は既にやっちゃったし」
そう聞いて、前に亮さんがミニスカナースの仮装をしていたことを思い出した。顔などは何もいじらずただナース服を着ただけだったのだが、成人男性にしては華奢な体型と中性的な顔立ちのせいで妙に様になっていた。もしかしたらこの人は、琉依と似たような感性の持ち主なのかもしれない。
「が、学ランなら貸せますよ……?」
一応、訊いてみる。
「ああ、確かに! 考えておくよ」
亮さんはそう言って笑った。
そしていよいよパーティー当日がやって来た。メイド服は琉依によく似合っていた。スカートがやはり短かったことが、綺依には気に食わなかったが。一方、着替えて鏡を見た綺依の方は、自分の姿に顔をしかめた。隣で琉依はかっこいいかっこいいと騒いでいるが、この着崩した不良のような格好のどこがかっこいいのか綺依には全く分からない。
「ねぇねぇおにぃ、壁ドンしてよ!」
「は?」
唐突にお願いされ、嫌だと突っぱねるも琉依は後に引かない。家を出る時間も迫っているし、渋々綺依は引き受けた。
壁を背にして立つ琉依の顔の真横の壁に右手を押し付け、顔を覗き込む。これでいいのか尋ねようとしたとき、琉依がきゃあきゃあと歓声をあげた。
「おにぃ好き!」
そのままガバッと抱きつかれた。綺依は壁ドンが何かよく分かってはいないが、なんとなくこれは違う気がする。離れようとしない琉依を引き剥がしたと同時に、部屋がノックされた。
「準備できた? そろそろ行くよー」
「はーい!」
亮さんの声に琉依は驚くほど迅速に準備を済ませ、綺依を急き立てて部屋を出る。パーティー楽しみだね! と笑いかける弟とは対照的に、パーティーに行く前から既に疲労感を感じた綺依であった。
<終>
やっと! やっと! 書けました2016年のハロウィンSS、現在は2017年の4月26日です半年くらい過ぎてます。
双子が何故メイドとホストの仮装をするのかというと、去年のハロウィンよりも前(だったはず)に作ったTwitterの創作用アカウントのアイコンを描いてもらったときに、メイド服とホストで壁ドンをリクエストしたからです。個人的な趣味です。
壁ドンの描写の仕方がイマイチ分からない。マンガは偉大ですね。
連休に入ったら本編とかどんどん更新できたらなーと夢見ています。
ではまた!
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