Only You!


●2022.5.4【SUPER COMIC CITY 29 -day2- 超Beckon of the Mirror 2022】にて頒布したフリーペーパーです

イデア・シュラウド × 女監督生(アイドル)

!次の新刊はこれを書きたいな!という決意
!出来れば全年齢で純愛書きたいな!という決意
!「お前爛れた恋愛しか書けねえだろ」って言ってきたフォロワー達への挑戦も含む




彼女たちのパフォーマンスが好きだ。
楽曲もさることながら、安定した歌声とクオリティの高い一糸乱れぬダンスで観客を魅了する。イデアもそんな彼女たちの作り出す世界観に虜になった数多くの人間のうちの一人だったし、他の客と一体となって打つ≠アとで彼女たちの世界観に溶け込むことが何よりも好きだった。
だから彼女たちの単独ライブには必ず参戦していたし、今日みたいな多数のアイドルが出演するアイドルフェスにも出来る限り参戦していた。

「今日のイベントもクオリティ高いグループばかりですなぁ…マァがけも≠フ足元にも及ばないけど」
「はは、ネクラ侍氏は手厳しいですな」
「…拙者、活発なニート氏みたいにDDではないもんで」

ステージ転換の間に、連番でチケットを取った同じ界隈の友人と雑談に花を咲かす。何度も現場に足を運ぶ中で知り合った彼のことは、普段何をしている人間なのかも本名すらも知らない。知っているのは彼のこの界隈での名前≠ニアイドルが好きだ≠ニいうことだけ。しかし、他人との間に壁を作りがちなイデアにとってはある意味一番の友人≠ニ言っても過言ではなかった。

次のアイドル登場のSEが会場に響き渡る。イデアは曲に合わせてペンライトを気怠げに振った。目当てのがけも≠ヘ今日のイベントの大トリだからまだ本気で振るところではない。彼女たちのパフォーマンスまでは体力を温存しなくてはならないのだから。

「ネクラ侍氏。次の子はこのイベントでアイドルデビューの子ですぞ」
「あ、そうなんだ」

隣に立つ活発なニートがこそりと耳打ちする。「だから今から推せばTO待ったナシ!」と続いた言葉に「…拙者はがけも一筋だって言ってんじゃん」と一蹴した。

──しかし。

そこにいた全員が息を飲む。登場SEで沸いていた会場が一瞬で静まり返った。

本日デビューのその少女は緊張しているのだろうか。ゆっくりとステージに現れた。
ふわふわのスカートとリボンが膝の上で揺れる。
肩まで伸びたくるくるの淡い色の髪が空気を孕んで震えた。
少しだけぎこちなくステージ中央に歩みよる彼女を 誰もが息をするのも忘れたように魅入る。
瞬きをしたら透けていなくなってしまうような、溶けて甘い水になってしまうような儚さと美しさがその少女にはあった。
伏せられた睫毛が白い肌に影を作る。長い睫毛が鳥の羽ばたきのように震え、隠された宝石のような双眸がゆっくりとその姿を現した。

「………うっそ、」
誰かが唸った。
「すっげぇ、かわいいぞ…」

そんな言葉に応えるように彼女はステージのセンターに立ってマイクをゆっくりと構える。澄んだソプラノが小鳥の囀りのように響いた。

「はじめまして、今日デビューしました。『YU』です。…名前だけでも覚えて帰ってくださいね」

その、瞬間、

「「「うおおおぉぉぉっ!!」」」

会場が歓声と拍手で爆発した。
拍手の輪はどんどん大きくなって会場を覆いつくす。甘く口笛が鳴り響き、彼女の名前を呼ぶ声がそこかしこから湧く。

「それでは聞いてください。『ONLY YU』!」
「「「おおおおっ!!!」」」

鳴り響いたのは王道アイドルソングにありがちな激しい縦ノリのメロディ。聞けば聞くほど耳に馴染むその旋律に会場に居た誰もが思った。──これはスルメ曲≠セと。初めて聞くはずなのに、既にコールを入れている客も居た。
それはイデアも例外ではなく、気付くと誰よりも声を張ってペンライトを振っていた。
まだ緊張が残っているのか、振り付けは少しだけぎこちない。声も若干上擦っている。それでも懸命に観客を楽しませようとするステージ上の彼女に応援したい≠ニいう気持ちを掻き立てられたのだ。

だから、落ちサビ前の間奏でイデアは、
「言いたいことがあるんだよ。やっぱりお前は可愛いよ。好き好き大好きやっぱ好き。やっと見つけたお姫様。俺が生まれてきた理由。それはお前に出会うため。俺と一緒に人生歩もう世界で一番愛してる!あ!い!し!て!る!」
と思わずガチ恋口上を打ってしまったのだ。

「ネクラ侍氏、とうとう推し変ですな」なんていう隣の活発なニートの言葉なんて耳に入って来る筈もなかった。
そして、人生初のガチ恋口上の達成感から来る賢者タイムに、大本命だった筈の大トリのがけも≠フパフォーマンスなど頭に入る余地などなかったのである。



△▽



「えっ、わたしがアイドルに…?」
「そうそう!キミなら絶対トップアイドルになれるよ!かわいいし!」

NRCの監督生である彼女は、大層に可愛らしい顔面を持った少女だ。ただ一つ、恐ろしくオツムが弱いことだけが欠点だった。
だから街に出た時に声をかけられた怪しげなスカウトからの「かわいい」という言葉にころりと騙されてしまった彼女は気付くとアイドル事務所と契約をしていたし、あれよあれよという間にアイドルとしてデビューするためのステージに立っていた。
逆に、通常スカウトした女の子が気にする筈の親への説明≠セとか学校への説明≠ノついて全くの無頓着だった彼女に対して「本当に大丈夫なの」と事務所側が気にしてしまった程である。

「あぁ、わたし親居ないから大丈夫です。学校にも絶対バレないから大丈夫です」

自信満々に彼女は言った。聞くと、彼女が通っているのは男子校で、普段は男装をしているからアイドルとしての自分≠ェ幾ら有名になっても身バレの危険は皆無だから大丈夫とのこと。念の為普段の学校での彼女の姿を見せてもらったところ、ただ黒髪ショートのウィッグを被って胸を潰しただけであり、どう見ても文化祭で男子の制服を着てはしゃいでいる女子≠ノしか見えずにマネージャーは頭を抱えた。
異世界からこの世界に飛ばされて男子校だから男装しないと≠ニいう安直な考えで男装をしているが、親しい生徒からはとっくにバレていることにすら気付かない。そんなオツムよわよわな彼女だったがアイドルとしての素質は十分に備わっていたため、初めてのステージで大成功を収めた時も自分たちの目に狂いはなかった≠ニ自画自賛するマネージャーだった。

「これから応援してます!」
「ふふ、ありがとうございます」
「それで、これ自分のツイッターのアカウントなんですけどぐるぐるのポン太≠チて名前でこれから毎日リプするので…」
「はい、ありがとうございました。次の方どうぞ

だからこそ終演後の物販も大賑わい。チェキも飛ぶように売れて大満足である。案の定少しだけしつこい客がちらほらいるため、マネージャーはチェキ券の受け取りとしつこい客の剥がしで若干忙しいが、これも売上のためだ。次回からはスタッフを増員しようと決意した。
残りはあと一人。最後尾に並ぶ客からチェキ券を受け取ろうと手を差し出す。…十枚もあった。
「え、」マネージャーは思わず最後の客を凝視した。がけも≠フTシャツを鞄で隠しながらゆらゆらと立つのは百八十センチを優に越すであろう大男だ。青白い長い髪から覗く顔面は驚く程に整っていた。

「アッ、あの、…今日はじめて見て…これから、応援、します」
「あ、…ありがとうございます」

彼女の微笑みに顔を真っ赤にした大男は「じゃ、それで…」とやけにあっさりとその場を去っていった。
デビュー初日なのに物販を積んでくれる。そしてスタッフにも演者にも配慮した立ち振る舞い。
TO──つまり、トップオタクの素質しかない。

「YUちゃん、今のお客さんの顔覚えといて。今度からライブの時にあのお客さんにたくさんレスして太いオタクに…YUちゃん?」

TOを育てる極意を熱く語ろうとした矢先、先程のTO予備軍が去っていった方向をぼんやりと眺める彼女に首を傾げた。

「…今の人、学校の先輩でした」
「ええええええ!」

早速身バレの危機やんけ!とビビりまくるマネージャーに「…ま、大丈夫ですよ。わたしの男装は完璧なんで」と返すオツムよわよわアイドルにマネージャーは頭を抱えた。

翌日「やっぱりバレてませんでした!わたしの男装は完璧なので」とメッセージを送ってきた彼女に、マネージャーは再び頭を抱えるのだった。

──これはアイドルのトップに上り詰めていくオツムよわよわ監督生≠ニそのアイドルの正体に気付かないままTOに君臨するイデア≠ニ全てを知った上で生暖かく二人を応援する(振り回されまくる)外野≠フ物語である。



▽専門用語多発ですみません。地域や現場ごとに用語の使い方が違う場合がたります。全てゆんが昔ドドドドド地下アイドル(笑)やってた時の記憶とノリで書いてます。今のガチ恋口上ってもっとバリエーション増えてるって知って震えてる。自分の通ってる現場では違う!わたしの知ってる用語の使い方じゃない!などありましたら申し訳ありませんが生暖かい目で流してくださいな!!

(back / top)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -