飴と鞭





フロイド先輩は意地悪だ。
気分屋で、天ノ弱で、フロイド先輩の前で何か失敗しようものならば冷たい視線で馬鹿にされる。
でも、フロイド先輩自身はというとその気になれば勉強もモストロ・ラウンジの仕事も難なくこなしてしまう。そんな人。

「ねーねーナマコちゃーん。まだ終わんないの」
「あ、ちょっと待ってください。もうちょっとで…」
「早くしてよねー。お客さん待ってるんだから」

本日はモストロ・ラウンジのイベントデー。普段の倍以上のお客さんが来店しているにも関わらずキッチン担当の生徒が風邪を引いてしまったらしく、その穴にわたしが抜擢されたのだ。
元々鈍臭いわたしが慣れないスイーツ作りなんてできるわけではなく、いつも以上に足を引っ張ってしまう。普段のホールの仕事でさえいっぱいいっぱいなのに…わたしを指名したアズール先輩も大概意地が悪いと思う。

「本ッ当にナマコちゃんて鈍臭いよねえ」
「ううう。…ていうかなんでわたしナマコなんですか」
「だってナマコみたいに鈍臭いしふにふにしてるじゃん」
「ふにふにしてないです」
「ふにふにしてるよー」

喋ってないで早くしてよね愚図。なんて言われて何も反論できないのは、わたしが密かにフロイド先輩に片思いをしているから。
去年まで男子校だったこのナイトレイブンカレッジに唯一の女生徒として入学した。周りの好機の目に晒されることは覚悟の上で入学を決めたのは、フロイド先輩がいたから。
元々は中学の先輩後輩で。
その当時からフロイド先輩が好きだったわたしは「次の年から共学になるみたいだし入学したら」という誘いに二つ返事で了承してしまったのだった。

「出来た?」
「あと5個なので先に出来てるやつ持って行ってくださいよ」
「えーめんどくさい。まとめて持ってくから早く全部作ってよ」
「…もう、フロイド先輩きらい」

ぷい、と手元に視線を戻してスイーツ作りに集中する。
最近、フロイド先輩の意地悪さに拍車がかかってきた気がする。
そこも含めて好きになったはずなのに、自分の不甲斐なさも相まって フロイド先輩と会話をするのが少し辛い。
そんなことを悶々と考えながら最後のフルーツを盛り付けていたら、ジェイド先輩がフラリと現れた。

「ナマエさん、スイーツ出来ました?」
「あ、ジェイド先輩。ごめんなさい、あともう少しでできます!」
「そうですか。では待っています」
「ごめんなさい。わたし仕事遅くて…」

すみませんと頭を下げると、ジェイド先輩は「大丈夫ですよ」と優しく笑った。

「普段ホールのナマエさんがキッチンの仕事を完璧に出来たら、他のキッチン担当の生徒の立場がなくなってしまいますので。だから、お気になさらないで下さい」
「ジェイド先輩…」

フロイド先輩から向けられたことのない優しさに涙が出そうになる。
ジェイド先輩とフロイド先輩は双子なのに、性格は全然違う。フロイド先輩もこのくらい優しく接してくれればいいのに、なあ。
そんなことをチラリと考えてしまってわたしは頭を軽く振った。

「ねージェイド、あんまり誘惑しないでくんない」
「誘惑?さあ、何のことでしょうか」
「ジェイドが甘やかしてもコイツ調子乗るだけだから」
「おや、厳しいばかりのフロイドよりは彼女にとっていいと思うのですが」
「あ、あの、二人とも…?」
「ナマコちゃんは黙ってソレ完成させなよ」
「は、はい…」

今まで黙ってたフロイド先輩がジェイド先輩に突っかかると、柔らかい雰囲気しか見たことのないジェイド先輩までもが剣呑な雰囲気になった。
え、ちょっとどうしたんですか二人とも。
フロイド先輩に急かされて必死に最後のスイーツを仕上げる。

「で、できました…」
「ジェイド持ってってよ。俺やーめた」
「フロイドは自分のモノのことになるとすぐそうやって…いけませんね」
「はあ!?」

眉を釣り上げるフロイド先輩に苦笑したジェイド先輩は、「ナマエさん。フロイドに飽きたら僕の所に来ていいんですからね」とわたしの手のひらに飴玉を乗っけると颯爽とホールに戻って行った。
残されたのは機嫌最悪のフロイド先輩とわたし。
ちょっとジェイド先輩、せめてフロイド先輩の機嫌戻してから帰ってくださいよ、、、!

「…ねえ」
「はい」
「ナマコちゃんは、ジェイドの方がいいわけ」
「へ?」

どうやってフロイド先輩の機嫌をなおそうかと頭を悩ませるわたしに向かって、フロイド先輩はボソリとそう呟いた。
ポカンと首を傾げると、「だーかーらぁ!」と痺れを切らしたようにそっぽを向かれた。

「ジェイドみたいに甘いほうが、嬉しいわけ?」
「フロイド先輩…」

そっぽを向いたフロイド先輩の耳がほんのりと赤く染まってるのを見て、わたしは小さく笑った。
わたしが呟いた言葉を聞いて、フロイド先輩も満足そうに笑う。

ごめんなさいジェイド先輩。素敵なお誘いだけれどわたしはやっぱりフロイド先輩のおそばにいたいのです。
コロンともらった飴を口に放り込むと、甘酸っぱいレモンの味がした。

(わたしは意地悪で天ノ弱で気分屋のフロイド先輩の方が好きですよ)



(20210114)
ツイステ沼ずぶずぶ。推しはアズール先輩です。

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