拝啓、僕の魔法使い様(※)


例えば、授業中に黒板を見る細めた目つきとか。
例えば、クラスメートと談笑しながら叩く綺麗な手とか。
例えば、昼休みにサンドイッチをちまちま食す仕草とか。

彼女のどこが好きかと問われればそんなものキリがないレベルで出てくる。
二人きりで喋ったことはさほど多くない。同じ寮でもない。オレたちマブだよな なんてエースは言っているが、所詮ただのクラスメートでしかない彼女を無意識のうちに目で追いかけていることに気が付いたのは数週間前。エースにニヤニヤしながら「お前監督生のこと好きだろ」なんて言われてしこたまからかわれたのは記憶に新しい。

純情。ウブ。奥手。小さい頃から男友達とつるんでばかりいた僕にとってこれは初恋と呼ばれるもので、その気持ちを自覚してから授業中も休み時間も彼女のことばかり見ては「デュース、オマエ最近キモいんだゾ」とグリムにさえ言われてしまうレベルである。
とはいっても思春期真っ只中の男子高校生、一丁前に気になる女子をボンヤリ眺めて色んなことを妄想するくらいいいじゃないか。──だけどそんな邪な気持ちとは裏腹に、口下手な俺は他のクラスメートから「真面目」「硬派」なんて陰で言われているらしい。ちなみにエースはこれを聞いて「いや、童貞拗らせてるだけじゃん」と明後日の方向を向いていた。

四人でつるむのも楽しいけれど、やっぱり僕は彼女との距離を今以上に縮めたかった。グリムは兎も角、僕の気持ちを知っているエースはもう少し気を使ってくれてもいいと思うんだけどな。…きっとエースのことだから「なんでオレがお前に気を使わなきゃいけねんだよ」って言いそうだけど。
彼女と二人きりに何とかなれないものだろうか。ほら、例えば次の錬金術の授業のペアに指名されたら。それかエースとグリムが都合よく居ない日に共通の課題をやるとか。あとはたまたま誰もいない廊下でばったり、とかさ。
そんな、自分では何も行動する勇気もない人任せな淡い欲望とは裏腹に、──僕はとんでもない場面に遭遇してしまったのだ。

「ぁ、あ、ンンッ、!」

放課後、部活の途中で。いつも通り陸上部のメンバーとお互いのタイムを競いながら活動していて「すまんデュース、予備のタオル持っているか?」なんてジャックが聞くものだから。僕は教室のロッカーに予備のタオルがあることを思い出してしまっただけ。だから、僕は断じて、その、悪気なんて一切なくて。だからこれは、ただの事故だった。そう思い込むしかなかったのだ。

「監督生ちゃん、きもちい?」
「ン、ぁ、きもち、ぃッ」

だから、だから僕は、あまりにも衝撃的すぎるその光景を目前に、ただ目を見開いて立ち尽くすことしかできなかった。
だって、誰が想像するだろうか。
自分が密かに想いを寄せている彼女が、他の男に犯されている光景を見てしまうなんて。

「(さいあくだ)」

呆然と立ち尽くす僕は酷く滑稽だろう。わかっている。僕がすべきなのは、タオルを諦めて今すぐ回れ右をしてグラウンドに戻ること。「悪いジャック、タオルなかった」と軽く頭を下げるだけのこと。だけど僕の体はガチガチに固まっていて、その場に生えてしまったように足が竦んで動かない。
まるでアクション映画のクライマックスを見ているときのように、目線は釘付けのまま。教室の扉についている小窓越しに見える二人は、まるで別世界のようだった。
相手の男は誰だろう。見覚えのあるような、ないような。他寮の腕章を着けている彼は、半分おろしたズボンからその汚い欲望をのぞかせて彼女に覆いかぶさる。──ああ、思い出した。たしかサッカー部のエースで、イケメンで、ロイヤルソードアカデミーの女生徒を取っかえ引っかえしていることを自慢している 女癖が悪いと評判のひとだった。

「ッッ!」

ばちり、窓越しに彼女と目があってしまった。ヤバイ。見つかった。終わりだ。きっと彼女は「きゃあ!」なんて叫んで、僕は軽蔑されて、そのまま彼女とは一切の関わりをもたずに卒業までいくのだろう。初恋という文字がガラガラと壊れていく音が聞こえた気がした。
──のだが。

「、ん、ふぁ…ッ!」

彼女は叫びもせず目を逸らすこともしなかった。それどころかその整った顔を気持ちよさそうに歪めて僕に笑いかけてきた。

「か、んとくせい、」

僕はそんな彼女から目を逸らすことも、立ち去ることもできない。ごくり、自分の喉が鳴る音が聞こえる。
悔しいことに異常な光景を前にしても思春期男子というのは欲望に抗えない生き物で、むくむくと大きくなった僕のムスコは痛いくらいに制服のズボンを押し上げた。

「ぁ、ふッ、ぅん……あ、!」
「監、督生…監督生…ッ!」

ドアの向こうから聞こえてくる淫靡な音と声。窓越しに見える二人の姿。なにより、僕を見る彼女の表情。
──いつの間に彼氏なんて出来ていたんだ。ああそうだ。全く気づかなかったさ。だって僕ら──俺たち四人はいつも一緒で マブで 隠し事なんてなかった。そうだった筈だろ。
悔しくて、苦しくて、虚しいはずなのに。狂いそうになるくらいの興奮に、僕は無我夢中で両手を動かすことしかできなかった。

「、も、むり…イく、ぃっちゃ…あ、ぁ、───ッ!」
「ッ、────ぅ、!」

窓越しの彼女がその整った顔を快感に歪めるのとほぼ同時。どぷりと脈打ちながら汚い欲を両手にブチまけたのだった。



△▽



あの日から、僕は彼女の姿を視界におさめることができなくなっていた。
毎日盗み見ていた授業中の横顔も、教室移動の後ろ姿も。視界に入れた途端、先日の乱れた彼女が頭の中いっぱいに広がりそうで。いや、既にもうあの姿が脳裏に焼きついていた僕は、想像だけで手一杯だった。
不思議そうな顔をするエースとグリムの、何より張本人である彼女自身の何か言いたそうな視線を背中に感じながら、僕は一人 いつものグループから離れて行動するようになった。

罪悪感と少しの興奮の入り混じった心では、もう以前のように彼女を純粋な憧れの目で見ることができないでいた。
彼女は気づいているのだろうか。タカが一クラスメートである自分が、彼女の姿を夜な夜な思い起こして自慰に耽っていることを。

「(…くそ、)」

悶々とそんなことを考えながら受ける授業なんぞ集中できるはずもなく。昼休み直前の体力育成の授業でもヘマをやらかした僕は、使用した箒の片付けを命じられたのだった。最初は僕を憐れむように見ていたクラスメートの連中も、チャイムが鳴った瞬間やれ休憩だ学食だと騒ぎながら去ってしまった。残されたのは出しっ放しの大量の箒と僕ひとり。
なんなんだよちくしょうなんて独り言を呟きながら僕は散らばった箒を乱暴に纏める。
──黙々と作業をしながらも頭の中を占めるのはやはり彼女のことだった。

さっきも、彼女の姿だけは視界に入れることができなかった。彼女が大多数の人間のように憐れみの目を向けつつも笑っていたのか。はたまた無関心にサッサと教室に戻ってしまったのか。そんなどうでもいいようなことすらも気になってしまう自分が、心底気持ち悪いと思った。
いつになったらまた彼女を純粋な目で追いかけられるのだろうか。あれは悪い夢だったのだと自分に言い聞かせられるまでは、まだまだかかりそうだ。

「あ、やっぱりまだここにいた」
「っ!…監督、生?」

纏めた箒を用具置き場に立てかけて漸くこの埃っぽい倉庫ともオサラバだと額の汗を拭ったところで、不意に人の気配がした。聞こえたのは僕の悩みの種の声だった。
彼女が自ら俺に接触してきたということは、だ。考えられる理由は一つしかなかった。ドッと噴き出てくる汗は暑さの所為だと思いたい。

「ど、どどどどうしたんだ?忘れ物か?」
「そんなキョドんないでよ。わたしが悪者みたいじゃない」
「わ、悪い…」

困ったように笑う彼女は後ろ手に倉庫の扉を閉めた。ガチャリ、なんてご丁寧に鍵までかけて。
ビクリと体が震える。え、なにこの状況。もしかして僕、ボコられる?急にこの間の男の人が出てきて「テメー俺の女の裸見たらしいじゃねーかオォン?」なんて言われたら僕はどうすればいい。喧嘩の腕には自信がある方だけれど、泣いていた母さんに優等生になると誓った僕はこの場合、どうすればいい?

「ねえ、この間さ…見たよね?」
「え、あ、な、なにが、?」
「セックス」

とりあえず惚けてはみたがバサリと切り捨てられた。監督生はゆらゆらと近づいてきて僕の目の前に立った。ふわり、制汗剤と彼女自身のであろう甘い匂いが鼻を擽る。

「悪かった、見るつもりじゃなかったし、あれは事故みたいなもので…」
「んー?別にわたし、怒ってないよ?」
「え…じゃあ、彼氏も、?」
「彼氏?…ああ、アレ彼氏じゃないから」

彼女の言葉に僕はポカンと口を開けた。彼氏じゃない?じゃああれは誰なんだ?確かにセックスはしていたよな…頭の中は既にキャパオーバー、僕はただ監督生の言葉を反芻することしかできない。

「わたしでヌいて、気持ちよかった?」
「、!…あ、いや、ごめん…」
「んー、だからぁ、怒ってないから」

気持ちよかったの?気持ちよくなかったの?なんて二択を迫ってくる彼女には、あの日の僕の行動は筒抜けみたいだ。最早彼女の中での僕は大勢のクラスメートが言う真面目で硬派な僕≠ナはないということだろう。

「き、もちよかった、です」
「あは、やっぱりわたしオカズにされてたんだぁ。ウケる」
「だ、だってあの状況だったらやむを得ないというか…」

けらけらと笑う彼女は俺の知っている憧れの監督生≠ナはなくて、俺は咄嗟にそう開き直るしかなかった。俺の言葉を聞いて目の前の女は見たことがない表情で笑った。

「デュース、今は謝るところだよ」
「え、」
「少なくとも真面目で硬派なデュース≠ネらそうするよね?」
「そ、れは、」
「勝手にそう呼ばれてるだけだよね?…わたし、ずっと思ってたよ。」

だってきみ、わたしとおんなじ匂いがしたもの。

「デュースはみんなが言うような真面目くん、なんかじゃないよね?」
「………」
「わたしもそう。みんなが言うような明るくて学園の猛獣を扱うのが得意な監督生≠カゃないよ。ウンザリしちゃうよねぇ。勝手に決めつけられて勝手に期待されてさ」
「それ…は、」
「この世界に不可抗力で流されたんだから好きに振る舞わせて欲しいって思わない?」

監督生はまた笑うとゆっくりと背伸びをした。グッと近くなる僕と彼女の顔。仰け反る僕を逃さないように首に腕を回される。ふわり、また甘い匂いが鼻を掠めた。

「クズ同士、仲良くしようよ」
「それ、は、どういう、」
「妄想したんでしょ?他の男の子に犯されてるわたしを見て、自分が犯してる妄想」
「………」
「ね、わたしのこと抱きたい?」

耳元で悪魔の囁きが聞こえた。
監督生の言葉を聞く限り、彼女は最初から僕の内面の黒い部分に気づいていたのだ。そして彼女自身、僕と同じように内に秘めている部分があった。そういうことだろうか。
己の黒い部分、なんて自覚していたわけじゃないけれど、確かに周りからの評価にも 泣いた母さんに誓った優等生でいること≠ノも疲れていたのは事実だ。つまり僕は、彼女の言う通りクズ≠ネのだろうか。

でも。だからといって。

「だ、めだ」
「え?」
「監督生は、もっと自分を大事にしないと。だ、だってほら、女子なんだから、さ、」
「ああ、そういうのいらないから」
「ぇ、ッん、…、!」

ペラペラとなけなしの理性を保ちながら言った僕の言葉は、不意に重ねられた彼女自身の唇によって掻き消えた。
咄嗟に顔を離そうとするけど首に回された彼女の腕は意外にも強く、反射的に開いた唇にぬるりと舌が入り込んできた。

甘い。

口の中で暴れる彼女の舌と目の前に伏せられた長くて綺麗な睫毛に、僕の中のナニかがぶちりと音を立てて弾けた。



△▽



「ぁ、んんッ、!」
「、・・・はぁ、」

二人きりの密室の倉庫。埃っぽいマットの上。そんなどこぞのアダルトビデオのような設定の空間で僕は彼女を組み敷いていた。
マットに散らばる綺麗な髪の毛も、少しだけ赤らんだ白い頬も、僕の唾液でべたべたになっている口元も、僕を掻き立てる材料にしかならなかった。
そうだ、彼女をこんなにしているのは。他でもない、僕だ。

デュースて、やっぱりわたしの思ってた通りのひとね。なんて目を細める仕草でさえ、綺麗だと感じた。彼女はいま、僕だけを見ている。それだけで、僕が興奮する理由としては十分だった。
何度も何度も角度を変えて口付ける。知っている知識をフルに注ぎ込んで耳や首筋を舐め、僕は彼女の制服のボタンに手をかけた。気持ちばかりが先走ってうまくボタンが外せない。そんな僕を見て彼女は小さく笑った。

「焦らなくても、わたしは逃げないよ」
「…うん、…ぁ、綺麗、だ」
「ありがと」

漸く開いたカッターシャツの間から覗くピンク色の下着に包まれた胸に、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
彼女の手に導かれるままにその膨らみに触れ、その柔らかさにまた喉が鳴る。

「いっ、!…ちょ、強く掴みすぎ」
「わ、悪い!」
「いい?女の子は繊細なんだから、優しく触らなきゃだめだよ。ホラ、こんな風に」

やわやわと優しく揉めば、「ん、はぁ」なんて艶かしい声が監督生から零れ落ちた。やばい。声だけで僕、イケるかもしんない。

「監督生、気持ちい?」
「きもちいよ。じょーず」

あやすように頭を撫でられて、手を彼女の背中に導かれた。「ブラのホックは、こう外すの」なんて教えられながら留め具を示される。言われるがままにそのホックをずらすと、パチンという音とともに彼女の胸が露わになった。
思わずそのピンク色の突起に唇を寄せてむしゃぶりつく。監督生が小さく声をあげた。

「ぁ、ん…きもち、い…こっちも、触っていいよ」
「…ッ!濡れて、る」

スカートを捲り上げた彼女のソコはとろとろに濡れていた。ええと、まずは指で慣らすんだよな。だけど、おそるおそる触れたソコがグチュ、なんて音を立てるものだから、思わず手を引っ込めて。

───僕は、どうしようもないくらい興奮した。

「デュース…?」
「悪い、!」
「ぁア……ッ!?待ッ、ッッ!」

ガツンと今にも爆発しそうな僕のムスコを監督生のナカに叩き込む。あ、やばい、すぐ出そう。
ごめん、ごめん、なんて謝りながらもガツガツ気持ちいいところを突き上げる。苦しそうに息をする監督生に覆いかぶさって腰を振る僕は、さながら獣みたいだ。──けど、こんなに気持ちいいんだもん。しょうがないよな?

「ね、ちょ、…ほんと待っ、て、」
「悪い、むり」
「や、ァ、ンンッ!」

がくがく揺さぶってイイところを突くとそれに応えるようにナカがきゅん、と締まった。僕の頬に監督生が手を当てる。眉間に皺を寄せながら監督生を見やる。長い睫毛に縁取られた瞳と目があった。

「悪い、監督生……泣いてる、とか。…正直、ソソる」
「や、だめ、も、ほんと──ッ、あ、またおっきく、」
「……ッやば、出る、──ッ!」
「、!ぁ、───っ!」

彼女の表情、乱れた髪の毛、すべてに興奮して。僕は堪らずナカに欲を吐き出した。



△▽



「悪かった…」
「もーいいって。謝んなくっても」
「…ごめん」

僕が漸く理性を取り戻した時には最早後の祭り。ぼおっと座り込む監督生に半ケツのまま土下座する僕は心底マヌケだろう。
僕の頭の中を占めるのは彼女に対する罪悪感だけ。好きだった相手の気持ちを一切考えずに自分だけ気持ちよくなって、ナカに出して。最低だ。最悪だ。死にたい。

「ほんと、もういいから。誘ったわたしも悪かったし。ね?」
「いや、もう最低だ。死にてえ…」
「だーかーらぁ、もういいって!とりあえずこれからのこと考えよ?もうわたしもデュースも午後の授業受けれないでしょ」
「あ…」

時計を見ると昼休みが終わる数分前。今から制服を着て急いで教室に戻っても間に合うかどうか。逆に二人揃って戻った方が怪しいだろうか。
更に募る罪悪感に押しつぶされそうになっていると、監督生は俺の膝の上に腰掛けた。

「な、なに、してんだ!」
「んー?もう授業とかどうでもよくなってきた」
「だ、だからって、」
「…でも、デュースもまだシ足りないみたいだけど?」

些細な刺激で再び熱を持つ僕のムスコをつぅ、となぞる監督生はひそりと笑った。
ねえ、次は優しくしてよね?彼女の甘い囁きに僕は再びゴクリと喉を鳴らす。

午後の授業の開始を知らせるチャイムの音を聞いて、もう硬派なんて呼ばれていた僕には戻れないんだな なんて他人事のように思った。

「ごめんね」

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