第一章・00.



 老婆は村外れの小屋で窓から外を眺めた。
 もう自由に動かせないその体を起こして木々や小鳥、川の奏でる綺麗な自然の音に耳を傾けている。
 小さく口ずさむのは、老婆が幼い頃から歌っていたとても綺麗な歌だった。

「おばあちゃん? 体が冷えるわよ?」
「ふふ、大丈夫よ。 今日はまだ暖かいもの」

 孫娘であろう存在に話し掛けられると、楽しそうに微笑んで答える。
 孫娘の心配をよそに、老婆はまた歌を口ずさみ外を眺めた。
 そんな老婆を見て孫娘は静かに優しく微笑む。
 そんな空間が彼女は好きだからだ。
 そっと持っていたタオルを椅子の背に掛け、孫娘は老婆の座るベッドの横にある小さな椅子に腰かける。
 そんな孫娘をみて老婆はまた笑顔を浮かべると歌をやめて他愛もない話を始めた。
 村のこと、両親のこと、友人のこと、勉学のこと、そして恋人のこと――……。孫娘から聞くそんな話を老婆は静かに聞いて頷いたり、意見をいったり、驚いたりして色んな表情を浮かべる。
 二人が過ごす時間はいつもそうやって過ぎていっていた。

「ねぇ、あの話を聞かせて?」
「あの話……?」
「そう、この村にいたって言う娘のはなし。 恋人を待つ――……」
「あぁ、あれねっ!」

 孫娘の唐突な言葉に、老婆は一瞬驚いて見せたが、意味がわかると楽しそうに笑って見せた。
 それから、暖炉の上に並んだ写真を懐かしげに見て老婆は遠い目をしてその唇を動かした。




 
 
 
 
『それは、それは遠い昔。
 この地方に流行り病が流行し色んな人に死をもたらしたとき、そんな死にも屈せずに生きる少女がおりました――……』
 
 
 
 


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