序章・00.

 
 この世界は“死”にあふれている。
 ある国では生きるために盗みを働くものもいるし、またある国では人を殺めるものもいる。
 生きとし生けるものに平等だった世界の理(ことわり)は、いつの間にか格差社会に埋もれ“生”は裕福なものの味方となり、貧しいものは短い生涯を終えていく。
 誰にでも訪れる“死”は、貧しいものの方がなぜ早く訪れるのか――……、それは単純な理(ことわり)だった。
 裕福なものは病に倒れてもそれを治療する為の金銭を持つが、貧しいものはその貧しさ故に、薬も買えず病を治療するほどの金銭も持ち合わせていないのだ。
 そんな世界に、“死”を司る青年は呆れていた。
 だからこそ、辛く死に絶える貧しい人間のように、裕福で私利私欲のために他人を貶めるものにはそれなりの“死”を与えることを青年は願い、実行していた。

「は……はっ……」

 荒い息をたてながら静まる道を走り抜ける男がいた。
 その地方でもそれなりに大きいその街の路地裏で血相を変えて何かから必死に逃げているのだ。
 時々振り返りながらその狭い道をただただ必死に一目散に走り抜ける。
 その男はちまたでも有名な実業家だった。
 けれどその評判は悪く、悪名高い人材で利益のためなら手を汚しても構わないと言うほど、悪事も働いていた。
 そんな男を追いかけているのは一定のリズムを刻んだ足音。
 そしてその一定のリズムを刻む足音の持ち主は闇に溶け込むほど黒い、黒い青年。
 真っ黒なスーツに真っ黒なロングコートを羽織り、裾からでた白い肌がよく映えていた。
 一定のリズムを刻む革靴もほんの僅かな明かりでも光るぐらい磨かれていた。

「は、はっ……っ! くそっ!」

 狭い路地裏は迷路のように入り組んでいて、地元のものでも時々迷うような場所だった。
 そんな路地裏を走り逃げるうちにどうやら迷い行き止まりに差し掛かったようだ。
 荒々しく壁を蹴るが道は開かれることはない。
 ふと、後ろから男に聞こえていた足音が止む。
 頬に伝う冷や汗、震える体、襲いかかる恐怖……、男は恐る恐る振り返る。
 そこには真っ黒なロングコートを纏う青年が立っていた。

「や、やめてくれ……、く、くるなっ……! くるなぁ!」
 



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