穏やかにサヨナラ

「別れましょうか」
じっとこちらを見て、駆け引きも何も無しにストレートに物を言う彼女が好きだった。
それは今でも変わらなくて、好きか嫌いかと聞かれれば、好きだと答える。
けれどその好きは、きっとこの関係に見合うものではない。
そしてそれは、彼女――なまえも同じことなのだろう。
未練も後ろめたさも無くて、付き合い出した頃と同じ雰囲気で、まるであの時をそっくりそのまま再生しているようだ。――内容が、180度違うだけで。
蔵見は少し笑って、
「ずいぶん急だね」
「そうですか……ああ、そうですね。でも、考えていたんです」
このままだと、きっと良くないって。……上手くは言えないですけど。
なまえはそう言って、苦笑を零す。
一緒にいるのが楽だった。
こちらの事情は何一つ知らない――もしかしたら察するくらいはしているかも知れないが、それをこちらは悟ることは出来ない――なまえと一緒にいるのが心地よかった。
それでも、それはきっと、恋人という関係に至るには少しだけそぐわない。
このままでもいい。
このまま一緒にいて、のんびりとしたなまえ気を楽しんで、それから、
「……そうだね」
きっと、その後は、自分から連絡を取らなくなってしまう。
そうして自然と無くなる関係なら、いっそ今区切りをつけてしまった方が良いのだろう。
恋人ではなくて、友人として。
お互いを縛らない方がきっといい。
なまえはきっと他の一般の男と交際して、自分もそれなりな女と関係を持つ。
その傍らで、友人としてまったりとした関係を続けていく自分たち。
少し想像しただけで、しっくりきてしまうその光景に、暗い感情はまったく浮かんでこない。
やはり恋人には向いていなかったのだと思いながら、ゆるりと髪を撫でた。
「最後に恋人らしく何かしときます?」
「そうだなぁ……」
別れ話をしているのに、なまえ気が少し弾んでいるのは、この会話すらも何かのイベントの一種にしてしまっているからだろうか。
この会話、少なくとも今日が終われば、恋人ではなく、ただの友人に戻る。
そう考えると、少し惜しくも感じて、
「キスでもしようか」
笑うその口の端に、唇を落とす。
恋人には向いていなかったけれど、それを拒まない程度には、お互いを好きあっていたのだと、確かめるようにゆっくり唇を重ねた。

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