案の定と言うか予想通りと言うか、母は愛情を注ぐ相手を兄から俺へと変えた。知らせを聞いた日からしばらくの間はまだ兄から離れず激励していたのだが、右目を中心に発疹が酷くなった途端手のひらを返したように兄を罵ったらしい。ちょうどその時天井裏に控えていた忍いわく「醜い化け物めが、妾に近寄るでない」だそうだ。愛する母にそう言われてしまった兄は号泣し、小十郎以外は部屋にすら近づかせないと言う完全な引きこもりになってしまったらしい。食事も喉に通らず益々体力が落ちているとのことなので、さすがの俺もちょっと心配になってきた。けれどそんな兄に対して「そのまま死んでしまえば良いのに」と言ったのは、俺にひっついて離れない母である。すっかり豹変してしまった母に呆れるも、それを顔に出すことはせずに静かに笑んで諫める。

「母上。そのような下賤な言葉はあなたには似合いませんよ」
「おお、つい口が滑ってしもうたわ。すまぬなぁ、竺丸」
「いいえ、わかっていただけたのなら良いのです」

兄を思い出し不機嫌を露わにしていた母は、俺を見るなりころりと表情を変えた。そして両手を広げ、俺を優しく抱きしめる。背中に小さな手を回してそれに応えれば、母の機嫌は一層上昇した。

「ああ竺丸……妾の可愛い、可愛い子」
「はい、何でしょうか母上」
「妾は今までアレに騙されていたが、もう大丈夫じゃ。これからはお前だけを愛するからの」

俺へと向けられた甘い言葉は、しかしその実俺へと向けられたものではなかった。きりきりと強まる腕に僅かに顔を歪めた俺に気づきもせず、母はただ言葉を紡いでは己に言い聞かせていく。正直まだひ弱な俺は痛くて仕方ないのだが、どうせ言っても聞こえないだろうから大人しく我慢するしかない。耳元で紡がれる兄へ対しての罵倒混じりの言葉の数々にうんざりしながら、俺は思った。

母は兄を化け物だ何だと言うようになったが、子を真正面から見つめることなくまるで玩具やペットのように扱う母の方こそ、化け物じゃねぇか、と。

まあ、母が俺をどう扱おうが、俺が母をどう思おうが、俺は母から離れることなんてできないのだけれど。まったく、父上も嫌なことを頼んでくれるぜ。まだ十にもなっていない実の息子に頭を下げた父を思い出して、こっそりため息を吐いた。もちろんそれは、未だにぶつぶつと呟く母の耳には届くことはなかった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -