あれよあれよと言う間に入学の日。父とレギュラスに見送られて乗ったホグワーツ特急のコンパートメントは、おれ含む純血の一族だけで固まった。どうせなら一人が良かったが、マルフォイに誘われてしまった以上断ることはできない。幸運だったのはこの場所には男しかいなかったことだろう。従姉妹がいたらおれの胃はたぶん死んでいた。まあ、彼女は良くしてくれてるんだけどね。ちょっとね。強引過ぎるというかね。

さっさと着替えてからというもの、散々お家自慢やらマグルに対しての愚痴を聞かされてしまったわけだが、適当に相槌をうったり聞き流してたりしているだけで済むのは有り難いことだ。おれはパーティーに出た当初からマグルなんて興味の欠片もないのスタンスを通していたおかげで、今でも無理に意見を聞かれることがない。もっとも、彼らはおれが純血にしか興味がなくてマグルなんていてもいなくてもどうでも良いと思っているんだろうが。

「スリザリンで待っている」

駅に着き別れる間際、そう囁いてきたのはマルフォイだ。おれがスリザリンに入ることを信じて疑わず、早くも歓迎の言葉を贈ってきた彼らに口元に笑みを乗せるだけで応えた。

さて、彼らの話をよそにおれは考えていた。おれの知る未来を変えるのならば“シリウス・ブラック”と同じ道を進んでは行かないんじゃないかと。都合がいいことにおれは純血の奴らに認められているし、とりあえずスリザリンに入って今よりもっと地盤を固めるべきか。グリフィンドールに入ってしまえば“シリウス・ブラック”がそうなったようにおれはほかの純血の一族やブラック家からの風当たりが酷くなるだろう。そりゃもう恥曝しめって感じで視線がぐっさぐさ刺さるぐらいには。今までしてきたことが全て水の泡になるのはごめんだ。スリザリンに入ってあのハゲの下僕になろうとは今のところ思ってないけど、万が一にもグリフィンドールになったらレギュラスへの期待がはんぱないことになる。それは困る。アイツにはなるべく自由にいてほしいし、“シリウス・ブラック”が家系図から消されてその上アイツがハゲの下僕になったらそのまま死亡ルートを高速で突き進むことになるだろうし。そうなったら余計難しくなる。それだけは避けなければ。


++++


ブラック家はホグワーツにいる者ならマグルでも知っている。名を呼ばれた一瞬はシンと静まり、どうせアイツはスリザリンだと言う声があちらこちらから聞こえた。数多の視線を受けながら、ぽつんと置かれたスツールに腰を下ろした。緊張をおくびにも出さず堂々と前を向く。古く薄汚れた帽子が視界を遮るように深く被せられた。

「ほう、ブラックの者か」
(どうも。スリザリンで頼みますよ)
「スリザリン……ブラックならばスリザリンに行くのが良いのだろう。しかし君にスリザリンは向いていないと私は思うがね」
(あっそ。でもおれはスリザリンが良いんだけど)
「確かに、君は目的のためならば誰よりも狡猾になる。そこだけ見ればスリザリンなのだう。……しかし、それは自分のためではないようだね。他者を守るべく活かされる知識…その優しき心ならば、ハッフルパフもあっている…………が、なにより君には、勇気がある」
(は?ちょ、何言ってんのお前)
「運命に抗うその勇敢さ。それならばやはり、ここが良かろう」
(やばいこいつもしかして)
「他者を思いやる心優しきブラックの者よ。君に幸多からんことを」

「───グリフィンドール!!」

あっ、終わった。


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