そこら中に転がる死体を避けつつ、目の前でゆらゆら揺れる二本の……ちょっと待てアレなんて言うんだ、触角か?触角で良いのか?まあその触角を見失わないようにと必死に後を追う。手綱を引いてくれれば見失う心配なんてものはないのだが、触角の持ち主こと俺の飼い主サマは引いてくれる気がないようだから自分で頑張るしかない。いっそのことあの触角を食んでやろうか、と思ったけどそれやったらさすがに押っ死ぬかもしれないからやめとこう。毎日生きた心地はしないけど命は惜しい。

決して軽いとは言えない足取りで触角を追っていると、不意に金属音が聞こえた気がした。近くからではなく、もっと遠くから聞こえた小さな音。足元を見るのをやめて立ち止まると、気付いた飼い主サマも足を止めた。

「ぶるる」
「……どうした、赤兎」

振り向いた飼い主サマに控えめに鳴くと、射抜くような鋭い目は俺を見て、そのあと視線を少し上にずらすとどこか遠くを睨みつける。その方向は音がした方向で、なぜ言ってもないのにわかるのかと言えば俺の耳がそちらを向いているからだ。自分では見えないし無意識に動くからわからないけど。

「フン、まだ生きてる雑魚がいたか」

次第に近付いてくる金属音。何度も聞いたことのあるこの音は、多くの人間が持っている量産型の刀だろう。ここまで聞き分けられる俺の耳は世界一ィ!なんつって。余裕ぶって心の中でふざけているとぐん、と手綱が引かれた。さっきまで放置してたくせに乗るのかよちくしょう自分勝手過ぎるだろなんて声は届くはずもなく、俺の背に軽々と跨がった飼い主サマは手に持つ戟を振るう。声がつまらなそうなのはその雑魚ってのが本当に雑魚だからだろう。それでもきちんと相手をするのだから、飼い主サマってばマジ戦闘狂だわ。蹴られた腹に呻きながら、俺は地面を蹴った。


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