※呪文適当




細かな傷が残る手の甲に刻まれた赤い模様を、そっと指でなぞる。落書きでもなく刺青でもないソレは、ほんの数日前に突如として浮かんだものだった。記憶にある残虐な行為をしたわけでもないのにこの模様が浮かんだのは、本来の自分と違って蔵にあった書物から多くを学んでいたからだろうか。それとも、彼らの言う修正ペンとやらが関係しているのだろうか。



ーーーーまあ、どちらにせよ、だ。


「どんなに頑張っても、俺は“俺”から逃げられないってことだろ」

暗く濁った瞳を瞬かせ自嘲う青年は、伸びた爪を模様へと突き立てた。ぎちりと音がしそうな程力の込められた模様からは同色の水が次々と溢れ出すが、青年は一度だけ視線を遣っただけで、顔色を変えることはない。それどころか傷を抉るように更に爪先を食い込ませると、これまた赤い何かで床に描かれたばかりの魔法陣に、その手を翳した。

ぽたり、ぽたりと魔法陣の赤と青年の血が混ざり合う。8滴、9滴、そして10滴目が落ちたのを確認すると、青年は色の悪い唇を薄く開いた。

「ーー閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ閉じよみたせ

避けられるのなら避けたかった。一生紡ぐことがなければ良いと思っていた。それでも、今ここにいるのは天命に逆らうことができなかった哀れな自分なわけだ。

「――――――告げる」

なんと滑稽なことか。淀みなく言の葉を紡ぎ続ける裏で、青年はまた自嘲った。哀れな自分自身に、本来の意図と違い利用されようとしているカミサマとやらに自嘲った。ただただ不幸を嘆くだけで終わるような人間と思うなよと、ほんの僅かでも良いから抗ってやると決めた。

「我が求むは剣となりし者、我が求むは盾となりし者。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

故に、青年は正史とは異なる言の葉を紡ぐ。自らが望む未来のためにと変えたこの呪文が果たして使えるのかと不安だったが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。魔法陣が発した光を見て、青年は胸を撫で下ろした。しかしだからといって呪文を止めることなく、光が増す魔法陣を見つめて紡ぎ続ける。


「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」


そして、全てが紡ぎ終わった瞬間。先程までとは比べ物にならない程の眩い光が部屋中に立ち籠めた。咄嗟に瞼を下ろし腕で目を覆ったがそれでも遅かったらしく、目の奥と頭が痛んだ。唇をかみしめ痛みが過ぎ去るのを待って数秒、光が収まった頃。そろりと腕を下ろした青年の視界に入った一つの姿に、彼はようやく笑みを浮かべた。







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