『ようやく……ようやく、終われる』

待ちに待った、今日この日。手に取らずともわかる未来に思わず懐かしい言語で呟くと、少し前にいたハリーが振り向いた。僕と目が合うと首を傾げた彼は、僕が同じように首を傾げてみせれば耳に届いた言葉は気のせいだったことにしたようで、一瞬ぽかりと緩んだ表情を緊張で強ばらせて生垣へと視線を戻した。

聞こえたことには驚いたが、彼が日本語を理解していなくて良かった。知られてしまえば言葉の理由を聞かれて、それに答えなかったとしても前々から疑心の目を向けてきた人たちに暴かれてしまっていたかもしれない。そうなれば僕が今まで生きてきたことが全て無駄になってしまうし、彼の成長を此処でとめてしまうことになっただろう。未練がましく日本語を覚えていて本当に良かった。

そう安堵している間にもバクマンの説明は進んでいたようで、今は選手の順位と名前を言っている最中だった。僕の名前で沸いたハッフルパフの席に手を振って、そのままぐるりと観客席を見回す。自寮にくらべると少ないけれど、それぞれの寮にいる友人や、慕ってくれていた後輩に世話をやいてくれていた先輩、校長に教授たち、そして───最愛の両親。少ない時間の中で、一人一人の顔をしっかりと目に焼き付ける。意味がないとわかっていても、せずにはいられなかった。口を開けば出てきそうな言葉を、笑うことでたえる。半ば無理矢理浮かべた笑みに違和感を覚えた者がいるかもしれないが、緊張からだと思ってくれたことだろう。けれど、ただ唯一人。ほかとは違う視線を僕へと向けていた人に、僕はほんの少しだけ、頭を下げた。この国にこの文化はないが、これで最後なんだ。そんな些細なこと、気にすることもないだろう。

相手の反応を見る前に生垣へと視線を戻して、母から貰ったペンダントを握りしめた。いってきますと声に出さずに告げて、前を向く。いつの間にか、ハリーが隣に並んでいた。

「さあ、行こうか、ハリー」
「うん。負けないからね、セドリック」
「……ああ、僕だって負けないさ」

第一、第二の時と同じでバクマンの声を遮るようにして鳴った銃声に顔を見合わせて笑ってから、共に迷路へと足を踏み入れる。後ろから、もう会うことのない家族の声が聞こえた気がした。


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