誰だよ組み別け帽子は意見を聞くよとか言った奴。こいつ全然聞いてねぇよグリフィンドールに行かせる気しかなかったよ絶対。

不気味なぐらい静まった大広間。幾つもの視線に、咄嗟に眉を顰めて溜め息を吐けたことを誰か褒めてください。組み別けの結果が不服なんだなってわかってやってください。あと将来有望のハゲ候補の視線をどうにかしてください。


帽子のせいで若干乱れた髪を掻きあげて直しながら、どう考えても歓迎されていないグリフィンドールの机へ向かう。無理矢理浮かべられたのが丸わかりな監督生にようこそ、と口先ばかりの歓迎の言葉をかけられ軽く返して椅子に腰をおろした。ブラックはBだから、組み分けはまだまだかかる。……その間ずっと、遠くからの視線に耐えなければいけないのだろうか。恐らく今日は彼らとの接触はないだろうが、明日からのことを考えると憂鬱になる。なぜグリフィンドールにと声をかけてくるか、それとも不穏な視線を向けてくるだけか。前者なら組み分け帽子も耄碌らしいとでも言えるからまだ良いが、問題は後者だ。言いくるめられない分、ただ黙っておれの評価が落ちるのを見てることしかできないだろうし。

(───いや、それよりも面倒臭いことがあるじゃん)

ホグワーツ内でのおれの評価なんて二の次だ。そんなことよりも大事なことがあったのを忘れていた。と言うか、考えたくなくて頭の中から追い出していた。おれの守るべきものであり、おれが何よりも気をつけなければいけない存在が。

(家にどうやって伝えよう……)

とにかく早急に手紙を送るべきだ。言い訳と言われても良い、さっさと謝罪とご機嫌とりの言葉を書いた手紙を送って、少しでも気を静めてもらわねば。明日の吼えメールは避けられないだろう。罵詈雑言の嵐を覚悟しておこう。……万が一送らなかったら、どうなるだろうか。そう考えてすぐに頭を振った。おれが言わなくても必ず耳に入るから意味がない。息子から聞いたんだけど御嫡男、グリフィンドールなんかに入ったんですって?とかなんとか言われるに違いない。人の口から聞くより、おれが直接言った方がまだ怒りの度合いがマシなはず。そう信じたい。

「あー……めんどくせぇ……」

思わずぽつりと漏れた声に隣の女生徒が怪訝気な顔をしたが、誤魔化すように笑みを浮かべるとその女生徒は一気に顔を赤くしてばっと組み分けへと意識を戻した。どうやら警戒をされていても、この顔は効くらしい。下がりっぱなしの気分がほんの少し浮上したような気がしながら、まだ残った新入生へと視線を向ける。

「ポッター・ジェームズ!」

少なくなった新入生の中から、くしゃくしゃ頭の少年がスツールへと向かう。自信に満ちた堂々たるその姿勢に思わずほう、と息を吐く。

「グリフィンドール!!」

座った少年の頭に被せられた帽子は一拍置いて、大きな声で寮の名を叫んだ。おれの時とは違う盛大な拍手が彼を迎える。監督生に肩を叩かれた彼は、榛色の瞳を細めて笑っていた。

(こいつが、ジェームズ・ポッター)

後の悪戯仕掛け人の一人であり、“シリウス・ブラック”の親友となる少年。

(おれはこれからどうなるだろうか、)

幾つか離れた椅子に座り、楽しげに笑う少年から視線を外す。彼とどう関わるか。それで全てが決まってしまうような、そんな気がした。
──おれはおれとして生きていけるのか、それとも“シリウス・ブラック”の道を辿ることになるのか。考えるだけでも胃が痛くなる。ひとまず、胃薬が常備薬にならないように願っておこう。


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