できます。(阿水) | ナノ


阿部くんは心底水谷に惚れていた。
悩みに悩み抜いた末にした告白は実り、晴れて付き合うことになってから約二週間。
いつもと同じように部活をし、授業を受けている。
…つまり、全く変化がなかった。
それは水谷のせいではなく、臆病な自分が原因だと重々分かってはいたが、それでもあまりの変化の無さには不満を持たずにいられなかった。
翌日の部活終了後、彼はこっそり水谷を呼び出しこれからはふたりで帰ろうと言った。
水谷は喜び、笑顔を彼に向けた。

最初に記した通り阿部くんは心底水谷に惚れている。それはもう水谷に近づく全てに嫉妬してしまう程。
だから、その自分だけに向けられた笑顔や当然のように差し出される手に歓喜し、勇気を出した自分を褒め称えた。

水谷がいつものようにぺちゃくちゃと話しているのを聞き、時々返事をしたり頷いたりしながら歩いていると、途中に公園が見えた。
水谷はぎゅっと握る手に力を込め、ちょっと寄っていこうと彼に囁く。
阿部くんはその声に体を熱くした。
あぁ、あぁ、期待をせずにいられようか。
水谷の手を引いて中に入り、並んでベンチに腰掛ける。
ふたりの間には自然な沈黙が生まれ、水谷は阿部くんを見つめ阿部くんは水谷を見つめる。
纏う温度がほんのりと暖かい。
ふたりの距離は段々と近づいていき、さぁ0センチになろうかという所。

不思議なことに彼の期待していたような柔らかい唇の感触は無く、かといってかさついたその感触があるわけでも無かった。
ただ目の前が赤く蠢き濡れていた。
彼の頭には混乱しか浮かばず、戸惑いを隠すこともできず、あんなに惚れ込んでいたはずの水谷へ非難の目を向けようとした。

しかし水谷は顔を赤くしてこう言う、初めてだったんだよ、と。


そこで阿部くんはわかったのだ。
水谷にとって眼球を舐めるという行為はキスをすることと同じなのだ。
周りにいる恋人たちがキスをするように、水谷は何かを確かめるみたいに眼球を舐める。
そう、今水谷は彼にとってのファーストキスを阿部くんに捧げたのである。


阿部くんは考える。
自分が何をすべきかを。
自分がどうしたいかを。

阿部くんは考えた。
水谷が届けられる方法、水谷に一番届く方法、それは唇を触れ合わせることではなく目玉を舐めることだった。
それは自分には到底理解できることではない。
しかし、手段によってそこにある気持ちが変わってしまうなんて、そんなのはひどく滑稽だ。
阿部くんが、水谷の手に触れたい、やわらかい髪を撫でたい、頬に触れたい、キスをしたい、そう思うように、水谷が阿部くんの目玉を舐めたいと思ったならばそれはとても幸せなことではないだろうか。

もう一度水谷との距離を詰めた阿部くんは、彼の思いが伝わるように優しくぺろんと水谷の目玉を舐めた。


「俺も初めてだよ。」


恋人たちはお互いの顔を見つめ、照れて笑い合い、そうして何度も何度も「キス」をしたのだった。













さて、それではここで問題です。

問い:性的倒錯者は所謂普通の恋愛をすることはできないのでしょうか。


答え:











性的倒錯者という言葉に侮蔑的な意味を持って使っているわけではございません。
響きが素敵だなと思ったので。
あべみずの日ばんざい!



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