月光
岩陰にて二つの影は体を寄せた。艶やかな髪が穏やかな風になびく。ここは深い森の奥、貧弱な人間にはとてもたどり着けず獣は二人を恐れて逃げる静かな場所だった。とっぷりと暮れた夜の帳には誰もが口をつぐみ虫の鳴き声ひとつしない。ゴツゴツとした岩肌に半身を預けた男の上に座った少女がそっと腕を伸ばした。ただ見つめ合うだけだった体の下の男の頬に触れる。


「よかったの?」

「フン、あのような向上心のかけらもない種なぞじき滅びる。それが多少早まっただけのことよ」


白魚の指先に赤
ぬるりと頬から拭われた液体は生ぬるく手を汚した。今しがた流れたばかりの血を名前はペロリと舐め目の前の美丈夫に顔を寄せる。青白い肌にカーズは微笑み、その首を抱き寄せた。


「腹でも減ったか?」

「えぇ。あなたが欲しい、と言ったら?」

「かまわん。存分に味わえ」


いたずらに微笑んだ名前に嬉しくなる
求められる、ということは実に気分がいい。たった今自らを不要と断じた肉親を屠ったばかりとなればなおのこと。牙を疼かせて肌に、首に舌を這わせる名前のなんと艶やかなことか。ゾクゾクと背筋を走る興奮に突き動かされ胸元から見上げる名前に視線でねだる。繰り返された密やかな習慣はこうして首筋を舐められるだけで腰に熱が溜まるように体を作り変えていった。すっかり張り詰めた股間に名前は手を置くとするりと撫でる。布越しの刺激がもどかしい


「…おい、はやくしろ」

「私は調理はじっくりするタイプなの」


こともなげに聞き流すと指先を潜り込ませた
その巨躯にあったサイズのものがピクピクと脈打っている。幹に指を巻きつけ、布越しにくちゅりと先端を押す。先走りの濡れた音が聞こえた。それに愉快そうに笑うと下肢にまとった衣類を取り払う。解放された男根がぶるりと揺れた。


「ふふっ、おっきい…でも今日はこっち」


あらわになった生殖器の下
慎ましく隠されていた後孔がチラリと覗く。そこに指を這わせるとカーズの体はビクリと揺れた。そっと入り口を撫でるときゅっと吸い付いてくる。何度も丹念に愛撫した甲斐があるというものだ。カリカリと肉輪を引っ掻き遊んでいると睨まれた。ゾクリと背筋に駆け抜けたのは嗜虐心。頬は紅潮し充血した性器からはとめどなくつゆがあふれている。こんな状態で咎めるように見られても煽るだけだとわからないのだろうか。いや、それが彼の思惑なのかもしれない。ずぐりと鳴った胎の奥に突き動かされるようにもう一方の手を差し出した。いつも通りに人差し指と中指が熱い口内に消える


「んんっ…ン、む……」

「私の指、おいしい? 食べたかったら食べてもいいのよ。そしたらほぐすのは自分でやってもらうことになるけど」

「……っは、誰がするか。もういいだろう」


ツーッと指と唇に銀の橋がかかる
ねっとりと味わったのか口内粘膜の温度が生々しく残っている。高ぶった精神は肉欲を滾らせ、戦い疲れた肉体は食欲を沸かせているだろうにずいぶんと我慢強い。私なんて簡単に犯せるだろうに、自分よりペットを優先させるなんていい飼い主に捕まったものだ。このご恩に報いる、だなんてしないがそろそろ私も限界なのだ。厚くぽってりとした舌にねぶられた指をくちゅっと秘部に差し入れる。


「…ン……」

「自分ではしないの? 固くなってる」

「っふ、誰が、ッぁ、…!」


少しづつ割り開いた秘裂
ぐるりと回すように指を動かせばイイところに当たったのか小さく声が聞こえた。基本的にカーズは嬌声を殺さない。体の下で艶やかにさえずる姿は目に焼き付いて離れないほど淫靡だった。最初の一声が呼び水になったのか激しくする指とともに低く快感に浮かされた声が鼓膜で踊る。


「っふ、ンンっ…ッあぁ! っく、そこだ…いいぞ……ん"ンッツ!! 、ぁ…もっとだ…!」

「…じゃあそろそろいれるね?」

「……んっ、…あぁ、来い…!」


コリコリとしたしこりを撫で潰す
男や女を超越した色気にクラクラしてしまう。人間をやめてからつけられた男性器が痛い。あまり煽らないで欲しい。薄く涙を滲ませながら不敵に笑った姿に腰に熱が集まる。きゅぷっと抜いた指に肉縁が吸い付いてくる。すっかり熟れたそこに鬼頭でキスすると一瞬で食まれ誘われた。にゅるりと襞が竿を舐めカーズの体温が全体を包む。


「んんっ…っは、きもちいい……」

「んグッ!…っふ、っは、惚けているな…さっさとしろ…ッ!」


挿入した時に前立腺をかすめたのか声がとろけている
叱咤のようなおねだりは馴染んだもの。グラグラに沸いた色情にこっちまで焼けてしまうそうだ。ぎゅうぎゅうとしがみつかれ離すまいと縋り付いてくる肉襞に睾丸がキュッとせり上がってしまう。ふぅ、と一息掃き出してからさらに奥に踏み入れた。ぐっぐっと押し入れると先端にちゅっちゅっと吸い付いてくる場所がある。


「…ん、いくね…ッ!」

「あぁッ…!……んォ"ッ!! っひ、ぅ、アッ、ぉ、あ"…ッ!っは、ぅ、ーーーーーーーっっぁあっ!!」


ぐっっちゅうッツと音が聞こえそうだ
何度か踏み入れたS字結腸の奥。そこを軽く小突き、こちゅこちゅするのがカーズのお気に入りだった。私としても絶頂にうねり、カリ首を弁が抱きしめるこの感じは嫌いじゃない。でも、


「っふ、今日は、出しちゃダメ…!」

「んなっ…!名前、おまえ、〜〜〜〜〜ッツ!」


だらだらと白濁をこぼしっぱなしになるのはよくない
イキっぱなしなのかずっと鈴口から溢れる精液のような液体にどうしても目がいってしまう。今日は何も分からなくなるくらい気持ち良くなって欲しいのに、こんな風に吐き出されたらもったいない。いつの間にか動かせるようになっていた髪を一房操って尿道に突き入れる。ぐじゅり、と音がした。よほどいいのかビクリと大きく体を跳ね上げハクハクと口を開いている。声なき悲鳴に顔が熱くなる。あのカーズが、涙をあふれさせて、真っ赤な快感にとろけた顔で、息をするのもやっとというように震えている。出さずに達したのか激しくうねる中も気持ちがいい。きっと、今が一番おいしい。


「…ちょうだい」

「ッツ、ァ、まて、なまえ、いま、は、ーーーーーーーッツ!!!!!」


すっかり密着した体
この状態ではとても逃げることなんてできない。青白い肌が全身真っ赤に染まっている。熟れた果実のような色。快楽に浸された血が一番おいしいのだ。口からの吸血に伴う快感も加えたら相当なものだろう。一瞬浮かべた焦燥。制止を無視して首筋にかぶりついた。ジュッと吸い付くと縋るものが欲しかったのか背中に腕が回される。ぎゅうぎゅうと腸壁でも腕でも抱きしめられ、まるで愛されているかのように感じてしまう。腹と心が満たされる多幸感に浮かされるまま遂情してしまう。そうまでしないと耐えられないならいっそ食い落としてしまえばいいのに。彼は捕食者だ。こんなチンケな生き物に縋るくらいなら骨まで平らげてしまえばいい。だというのに吸血鬼に変えて村から連れ去り、ここまで連れてきたなんて全くどうかしてる!



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


















「お客様、ラッピングはどうされますか? 200円の追加料金をいただければ箱とリボンが付きますが」

「、あ、あぁ。じゃあお願いしようかな」


隠せない怪しさ店員が怪訝な顔をしている
ランジェリーショプに男がいる時点でプレゼント用だと誰もが思うだろう。初めてのプレゼントか何かで照れているだけだと思ってくれればいいのだがどうしても不安が拭えない。やましいことがあると人は疑心暗鬼に陥りやすいとは聞くが今まさにその状態だ。まさかバレることはないだろうが…なんにせよ早くここを離れたい。かわいらしい箱が入った袋をもらい足ばやに立ち去る。初夏、実にいい天気だった。



「あら、帰ったの」

「…名前、ちゃんと言われた通りにしたからもう勘弁してくれないか……」

「なんのこと? 言ってくれなきゃわからないわ」


ソファーで雑誌をめくる名前
意地悪な彼女はこちらを見向きもしないで酷いことを言ってくる。ずくずくとわだかまった欲が背骨の根元で唸りをあげた。言葉にしなくては何をどうしたって名前は許してくれない。鈍い痛みを無理やり抑え込んで、羞恥に悲鳴をあげる矜持をなだめて、これっぽっちも動いてくれない舌を激励する。恥辱に止まろうとする言葉を情欲が吐き出させる。名前はセックスする時、女を強いた。


「…ッ、ちゃんと、お、女の子らしくしてたから、最後まで、かわいくしてくれ…」

「言葉遣い」

「〜〜〜っ! かわいくしてちょうだいッ!!」


こんなガタイのいい男のカマ言葉のどこがいいんだ
ヤケクソで出した大声に余計恥ずかしくなる。でももう限界だった。これ以上耐えられない。ここ数日は淫夢にうなされるような毎日で、もどかしくて、飢えて渇いて、どうしようもなかった。これだって爪を磨いている彼女の足元に縋り付いてやっと引き出したチャンスだ。もうここまで来てふいにするなんて到底できなかった。


「女の子らしくってなにしたの?」


ぺらり、ぺらりと鳴っていた音が止まる
目だけでこちらに向いた名前の視線に息が止まりそうだ。そこまで言わせるのか。思わず握り込んだ拳。じわじわと血が顔に登っていくのがわかる。熱い。きっと顔はリンゴのように真っ赤だろう。名前の鋭い目。どうやったって彼女には勝てない。痛いほど握っていた手を開きズボンのベルトを外した。


「…この春の新作だそうだ。ショップで、買って、…トイレで着替えて、…後ろもほぐしてきた。だから、」

「早く抱いてって? 」

「、あぁ」


言った。とうとう言ってしまった
なんども拓かれた後孔が疼く。可憐なレースの下にプラスチックで押さえ込まれた哀れな性器が覗いている。ここ一週間ばかり貞操具をつけられ、勃起すら許してくれなかったのだ。ほんの少しでも刺激を受ければ兆してしまうのに一回り小さい拷問具は常に鬼頭を嬲り、思わず勃起してしまえば握りつぶすような痛みを送り込む。常に甘い蜜をチラつかせて食いつけば鞭打つだなんてまるで名前そのものだ。こんなものをつけて、挙げ句の果てに女性用の下着を身につけるだなんて正気の沙汰ではない。けれどそうしないと名前は鍵を開けてくれない。淫獄の炎に炙られながら苦しむしかないのだ。冷たい黒い瞳の前でするすると服を脱ぎ、似合わないベビードールとパンティだけになる。こんなものを見てなにが楽しいのか、名前は艶やかに笑った。


「へーえ、そう。シーザーは女の子に抱かれるために女装してお尻をおまんこにしてきちゃうの?」

「んなっ、ぅ、そう、だ」


あんまりな物言いに言葉が詰まる
それでも重くなった睾丸が煮えるようで舌を震わせた。名前の視線が肌を舐める。目で犯されるような感覚に肌が泡立った。まるで目の前の肉をどう牙立てようか考える獣の目。ゾクゾクと興奮に沸く体が抑えられない。名前が自分の指をペロリと舐める。いつもナカで暴れまわり絶頂に突き落とす指。それが唾液に光り、前立腺を引っ掻く時のようにくぃっと曲げられた


「……ぁ、ぅ…ぅう…」

「ねぇ、膝が震えてるわよ? 大丈夫?」


なんて白々しい!
あの指があんな風に動かなければ、名前があんな風に笑わなければ、あんな目で見なければ肉欲に支配などされないのに! すっかり躾けられたこの体は持ち主より名前に従順で。じくじくと膿みだした欲が足を震わせる。もはや縋ることしかできない。名前の座るソファーの前に跪き、じっと見つめた。


「名前、もう限界なんだ…」

「そうなの? どんな感じ?」


どんな感じだって?最悪に決まってる。
もはや少しも我慢できず、男のプライドよりも強大な熱に押し流されてしまう。ソファーの上と下、視線を絡ませ合いながらそっと唇を開いた。


「…ずっと、寝ても冷めてもムラムラして、でも出すこともできなくて、それなのに貞操具が敏感な先っちょをいじめるんだ。それでも勃起すらさせてくれない。ちんこを握り潰すみたいな痛みが走るんだ。思わず股間に手をやりたくなるけどいくら触ったって少しも刺激をもらえない。…ケツを触ったってちょっとでも勃っちまったら痛くてもう快感を追えない。朝なんて地獄だ。空に太陽が登るか登らないかって時に痛みで飛び起きる。……ずっと考えるのは名前、君のことだ。その指、その唇に愛されたい。早く愛させて欲しい。もう、もう限界なんだ…ッ」


飢えて渇いた声
思ったよりも追い詰められているようだ。足元に縋り付くように座り込んだシーザーに子宮がずぐりと疼いた。情欲に濡れて死にそうな声色。今にも崩れてしまいそうなほど爛熟した瞳。相当この色男は溜まってるらしい。切羽詰まった顔で、声でねだられると答えてしまいたくなる。最後に体を重ねたのはいつだったか。このところシーザーのお尻を可愛がることはあっても私に触れさせることはなかった。冗談半分で女装したら、だなんて言ったがこの女たらしが本当にするだなんて思いもしなかった。一週間溜めて濃厚になった精はさぞ熱いだろう。けど、


「シーザー」

「あぁ…名前…」

「悪いけど…鍵、実家に置いてきちゃったの。配達で届くのは来週だから、我慢して?」


青ざめ目の前で餌を取り上げられた犬の顔
まったくこれだからやめられないのだ

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