「空条承太郎を麻縄で拘束し、洞窟に監禁した。冷めた食物を与え3日置きに視姦した。初めは怯えていたが、徐々に慣れていった。3週間監禁したが、最後にはそれが日常になっていた」



「脱がしますね、怪我があると大変ですから。兄さんの命を無駄にするなんて許しません」

そう言うと承太郎を襲い監禁し始めた彼女ーー花京院名前は承太郎の服に手をかけた。

がさごそときぬ擦れの音が洞窟に反響する。ここで名前に全裸にされるのはこれで5回目だ。以前3日ごと確認する、と言っていたので少なくとも承太郎はこの日も刺さず冷たい暗がりに15日はいたことになる。

よっぽど地中深くにいるのか気温も一定で明かりはランプたったひとつ。着々と減っていくレトルトのパッケージと定期的にいなくなる名前だけが時間の経過を知らせていた。

しゅるりと麻縄が解かれる。以前抵抗しようとした時は女と思えぬ力で首を絞められた。それにあの目、あの狂気を孕んだような甘い目が承太郎の闘志を鈍らせる。

空気が冷たい。無感情な視線と冷気に肌が泡立つ。

「立って。一周回ってください。」

一切顔色を変えず名前は言い放つ。年頃の男女が醸し出すには異常が過ぎる空気が二人を包む。無表情。責めてもいない、愛おしんでもいない怖気が走るような無表情で名前はいた。

これだ。これだけが承太郎のここにいる理由だった。名前がいない時もある。麻縄などスタンドで引きちぎれば、そうでなくとも3日置きに解かれるのだ、その時に逃げてしまえばいい。

それをしないのは何も浮かんでいない。あの仄暗い目が一瞬澄む、この瞬間があってこそ。承太郎はこの狂女(くるいめ)の理性によって縫い止められていた。

ランプが承太郎の全身を照らす。生まれたまま、一切の誇りも虚飾も許されぬ姿を名前が、花京院の妹が見つめる。彼女にとってこれは「兄が守ったものの点検」以外の意味はないのだろう。承太郎は仄かに悲しみを覚え同時に背筋をゾクリと得体の知れないものが駆けて行った。

ことの始まりは数ヶ月前、花京院の葬式に承太郎が行った時だった。意外なことに拒まれず彼の両親は「友達」の参列を泣きながら歓迎してくれた。間接とはいえおれが、原因だった、のに


そこで花京院の妹にあった。よく旅の最中でも花京院が自慢気に話してくれた彼女。花京院名前は目を赤くして泣いていた。花京院の事、旅の事を話すことになった。

「兄は、兄が奇妙な力を持っていて、それで疎外感を感じていたことも、壁を作っていたことも知っています。」「兄は貴方の【友達】でしたか…?」

震え声でそんな事を聞く名前は頼りない、支えをなくした幼子のようでどうしようもなく保護欲を擽られた。そんな逢瀬のような鎮魂のような邂逅を続けたある日のことだった。頭部に衝撃が走り夜道に承太郎は倒れた。



「こんにちは承太郎さん」

目を開けると彼女が薄笑いを浮かべて立っていた。普段と同じ笑顔のようで決定的に違う。拭い去れない違和感とともに暗く寒ささえ感じる空間に気づく。

「ここ、は…」
「秘密です。承太郎さんとの関係は話を聞いて兄の手紙を読んで何となくわかりました。」

「けどそれで【妹】の私が納得するかは別ですし…ともかく貴方は被害者です。おとなしく監禁されてください。」

反論しようとした言葉を飲み込む。承太郎が本気になればスタンド抜きにしても彼女に勝ち目はない。しかし承太郎が逃げ出したら殺しそうな、あるいは死んでしまいそうな危うさが名前の目にはあった。

承太郎が断った所で花京院自身が認めまい。しかしそれでも承太郎が同行を許さなかったら、そう思うと近づいてくる麻縄を受け入れることしかできなかった。

それからこの洞窟に承太郎は約2週間監禁されている。あの狂気を灯した名前にもなれ唯々時間が過ぎていった。名前はたまに食料補給のためいなくなるがそれ以外はずっとここにいる。外でどうなっているのか疑問だった。



定期的に名前は泣く。堪えきれなくなるのか無表情にただ涙が伝う様子は聖マリアの奇跡の像のようだった。今日も美しくランプに涙が輝いている。承太郎は黙ってそれを見ているのが好きだった。

「…何で、何で逃げないんです?」

キラキラと宝石を目頭から零しながら名前は承太郎を罵る。何とも身勝手だ。承太郎を閉じ込めたのは名前なのに。

「……さぁな。いいのか確かめなくて。もう3日立ったぜ」

答えず承太郎は日課の到来を告げた。そんな事わかるかよ。こいつのためにもおれのためにもとっとと此処から逃げたほうがいいのは分かってる。理性が早く出ろ、彼女を病院に連れて行くべきだと叫んでいる。けどあの目がおれを見ているうちは彼女は、名前は此処にいるのだ。おれが逃げないように名前も逃げない。

「、もう終わりです…」

ぐっと名前は言葉を飲み込むとポツリと漏らした。

「もうじき警察の人が此処に来ます。貴方は被害者として私を訴えればいい。これでこの事件は一件落着です。」

そう目を伏せ呟く。そっと承太郎の胸に耳を寄せ名前は鼓動を聞いていた。

「そうか…この縄を解いちゃあくれねぇか?最後くらいいいだろ」

「?、ついてた方が訴えやすいと思いますけど…変な人」

そう言うと名前は縄を解く。承太郎は音もなく名前を腕に閉じ込めた。

その直後に3週間沈黙が支配していた暗闇に喧騒が入った。

「君、大丈夫かい?!」

「あぁ、名前が世話してくれたお陰で死なずにすんだ。…誘拐犯は捕まったのか?」

承太郎の言葉にぎょっとした顔で名前は口を開ける。しかしその声が届く事はなく承太郎の大きな掌に消えた。

「犯人…?そこのお嬢さんに容疑はかかってるんだが……」

「いいや。こいつは脅されただけだ。被害者本人が言うんだぜ?間違いねぇだろ」

そして承太郎と名前は救出され高校生の男女を狙った卑劣な拉致監禁事件は迷宮入りした。







「…よかったんですか?貴方には私を訴え裁く権利があり私は裁かれ罰されるだけの罪がある」

「あぁ、これでいい。この結末を選んだのはおれだ。こうするべきだとおれが決めたんだ。異論はねぇ。」

あれから数年が経ちアメリカへ発った承太郎とともに名前もいた。名前の両親は始め難色を示したが二人はついぞ自由の国に至った。

「脱いでください…今は縛ってないんですからご自分でお願いしますね?」

ジリジリと視線が承太郎の裸体を灼く。ギリシャ彫刻のように黄金比の取れた肉体が陽光に照らされる。今の名前の目には確かに焼き焦がすような愛情が覗けた。

以前とは違うが背筋を駆け抜ける快感は承太郎の頬を熱くする。どんな色でもいい、このエメラルドの瞳が欲しかった。思えばこれは一目惚れだったのかもしれない。名前を花京院の葬列で見た時声をかけたのは己だった。あの洞窟の中おれを繋いでいたのは麻縄でも名前の狂気でもなく初恋だったとは笑わせる。

かつて花京院名前と名乗っていた少女はもういない。あの暗闇から出た時に太陽に融けたのだ。

「ふふ、たってますよ。この変態」

今彼女は空条名前と呼ばれている。

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