※グリーン女体化注意





時刻は正午12時7分前。
腕に巻いた腕時計でそれを確認し、俺はもう一度ポシェットから手鏡を取り出して自分の顔を確認した。マスカラは崩れてないか、リップは落ちてないか。
2分前にも確認したそれは、当たり前かもしれないが殆ど変わりなどはない。強いて言うなら前髪が風で少し乱れてるくらいか。
指先でそれをちょいちょいと直して、再び手鏡をしまう。

「はぁ…」

このため息も今日一日だけでもう何度目だろう。そわそわと落ち着かない体に、ドキドキと止まらない心臓。膝の上でぎゅっと握る両手のひらにはじんわり汗がにじんだ。

ん?どうしてそんなに緊張してるのかって?
……しょうがねーだろ。だって今日はデートなんだ。
つい先日つきあい始めた後輩との、記念すべき初デート。
緊張するなと言う方が無理な話だ。
そりゃ…あいつとは今までだって一緒に遊んだこともあるし、出掛けたことだってあるけどさ。それでもやっぱり、デートとなると話は別。
やっぱり意識せざるを得ない。だって“恋人”なんだから。友達とか、先輩後輩として付き合ってきた今までとは違う。
手とか、つないだりすんのかな。とか期待してしまう。まだ俺達には早いかもだけど、キ、キスとかもしちゃったりして…。
いや、いやいやいや!それは流石にないか。初デートでキスとか…いくらなんでも早すぎる!
……でも、彼とだったらしてみたい。手をつないだり、キスしたり、恋人らしいこと、していきたい。

だって恋人なんだから。

だから、今日の俺はひと味違う。
自分なりに、最大限の努力をしてきたつもりだ。
昨日の夜は風呂上がりに一番高いパックして、見たいテレビも我慢して早めにベットに入り、今日は朝こっぱやくから起きて念入りにシャワーを浴びた後、慣れないメイクにも挑戦してみた。と、言ってもかなり姉ちゃんに助けてもらいながらなんだけど。おぼつかない手つきで施した化粧は、姉ちゃんのアドバイスでかなり薄い感じの仕上がりだけど、自分でもいつもより、ほんのちょっと可愛くなれたんじゃないかと思う。
くせっ毛で跳ねてしまいがちな髪だって、キレイにブローしたおかげでサラサラだ。昨日のトリートメントのおかげかな。
爪だってピカピカに磨いてきたし、うん、我ながら完璧だ。

後は、服装。これにだって気合いを入れた。
普段からガサツで、女の子らしいとこなんてひとつもない俺の、精一杯の背伸び。
女の秘密兵器、ミニスカート。
デートに誘われて慌てて買いに行った、俺の勝負服だ。

何かと忙しいであろうジムリーダー仲間のカスミとエリカに、どうにか時間を開けてもらって見立てたそれは、薄いピンクの花柄のブラウスに、白いレースのミニスカートを合わせたものだ。
いかにも女の子!と言った出で立ちのそれに、試着室で着てみた時は、恥ずかしくて人前に出られない!と思ったものだが、カスミとエリカの見立てだし、普段から女の子っぽい服装の2人が「それくらい女の子なら普通よ」と言ってくれたので、思い切って買ってしまった。
ま、まあ家で姉ちゃんとレッド(たまたま遊びに来ていた)の前で着てみて、変じゃないかは確認済みだし、大丈夫、だとは思う。


ふわり。やわらかな風がシフォンのブラウスと、スカートを揺らす。ヒラヒラと膨らむそれと一緒に不安と期待が入り交じる。

(可愛いって、言ってくれるかな)

普段パンツを履くことが多いせいか、剥き出しになった脚がなんだか心許ない。履き慣れないパンプスに包まれた足下は、なんだか自分のものじゃないみたいだ。

いつも、髪型や服装、言動のせいで男に間違われることも少なくない俺からすれば、化粧もスカートも何もかも冒険だ。

正直、こんな俺を見てゴールドがどう反応するかがすごく不安だ。

でも、ちょっとずつこういう感覚にも慣れていきたいと思う。

俺、もっと可愛くなりたい。
もっと女の子らしくなって、可愛くなって、もっともっと、ゴールドに好きになってほしい。

それは、ゴールドへの恋心を自覚してからずっと思い続けていたことだった。

…だれだって、好きな人には「可愛い」って思われていたいだろ。

だから、精一杯背伸びして、スカートひらり、見せつけるんだよ。

ドキン、ドキン。
期待と不安で心臓がうるさい。

早く、彼に会いたいような。まだ、心が落ち着くまで待ってほしいような。

腕時計を再び確認する。
気づけば、待ち合わせ5分前。

じりじりと、しかし着実に進んでゆく秒針から目をそらして、気分を落ち着ける為に大きく息を吸った。

その時、

「グリーンさん、お待たせしました!」

ピクリ。肩が揺れる。後ろから待ち焦がれていた彼の声。
ゆっくりと立ち上がって、振り返る。

「……おせーよ、ばーか。」

ドキン、ドキン。心臓がうるさい。
声、ふるえる。逃げ出したくなりそうな羞恥心をこらえ、彼の反応を見ようと持ち上げた視線。

驚きに見開かれるその表情が、次はどう変わるのか、怖いような、楽しみなような。

様々な感情が入り交じって唇が戦慄く。

きゅっと握りしめたスカートの裾が、ゆらり、揺れた気がした。



ミニスカート



好きな子の為に精一杯おめかしする女の子ってかわいくって大好きです。主催する企画GRN48へ提出。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -