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「「デュエル!」」


「先手は取らせてもらおう。ドロー」

いつもとは違う相手の反応にタイタンは得体の知れなさを十代に感じたが、頭を切り替え、先行ドロー。
ドローしたカードを手札に加え、攻撃力900のモンスター、インフェルノクインデーモンを召喚する。
デーモンと名の付くモンスターの出現に十代はあるデッキ内容を思い出した。

「デーモンデッキか!」
「このカードがフィールドに存在する時、デーモンと名の付いたモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップする」
「え!?」
「って事は!」

翔と隼人の驚きの視線の前で1900へと攻撃力が上がる悪魔の女王。

「確かにデーモンデッキは強力なデッキだけどさ、場のモンスターを維持する為にスタンバイ・フェイズごとにでっかい代償を払うんじゃなかったっけ?」

十代の中ではデーモンデッキは一々コストを支払わなければいけないというスリリングなデッキに位置付けられていた。
なかなか面白くて十代も扱った事はあるのだが、メインデッキがヒーローだと決まってるので、そこまで使ってはいない。
そんな十代の疑問にタイタンは嗤う。

「フフフ・・・代償だと?そんなモノは必要ないのだよ、このカードの前ではなぁ。フィールド魔法発動!」

タイタンがデュエルディスクにカードを放り込むと薄暗かった周囲を煌々と照らす程眩い光が放たれた。
三人は腕で顔を覆い、光に耐える。
光が治まるとその場の光景がガラリと変わっていた。

「何だ、ここは・・・っ?」

怖気の立つような骸骨竜や悪魔の骨が十代たちを囲んでいる。
床も壁もモニュメントも赤黒く、まるで何かの内臓の中にでもいるような気分にさせた。

「さしずめ・・・地獄の一丁目とでも言っておこうか。私はフィールド魔法『万魔殿−悪魔の巣窟』を発動させた」
「パンディモニウム?」
「そう。このカードによりデーモンデッキを維持するコストは発生せず、デーモンと名の付いたモンスターは戦闘以外で破壊された時、転生する能力を得るのだ。さぁ、お前のターンだ。おぉっとこの娘が気になるようなら、お前の目に入らないようにしてやろう」

タイタンの合図で明日香の入った棺が自動的に閉まり、その棺を引き込んでいくフィールドの仕掛けに三人は目を見開く。
視界にあるうちはまだ助け出せる気がして安心できたのに見えなくなってしまった事で翔と隼人は焦った。
さらに十代たちの焦燥感を煽ろうとする、優しさに見せ掛けた姑息な方法を取るタイタンに二人は憤りを隠せない。
しかし、十代はというと仕掛けに興奮して目をキラキラと輝かせていた。

「おお!すげー!」
「汚いぞ!」
「卑怯者!」
「フッ。何とでも言え。これが闇のゲームだぁ・・・。何ならお前たちも消してやろうか!」

タイタンの脅しに翔と隼人はヒィッと引き攣った声を上げる。

「へへっ!お前面白いな」

十代はタイタンの脅しを冗談だと思っているのか危機感を感じられないワクワクとした表情で笑った。

(攻撃力1900に勝てるモンスターはオレの手札にはない。だが!)

自身の手札をじっくりと見て、十代は次の手を思い付く。

「オレはE・HEROフェザーマンを攻撃表示で召喚!そして伏せカードを2枚セット!ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。ジェノサイドキングデーモンを新たに召喚。ジェノサイドキングデーモンはぁ、自分のフィールドにデーモンと名の付いたモンスターが存在しなければ召喚出来ない。だが私の場にはインフェルノクインデーモンがいる。インフェルノクインデーモンの特殊効果により、ジェノサイドキングデーモンの攻撃力アップぅ!」

攻撃力2000のジェノサイドキングデーモンがクイーンによって力を高められ、3000の強モンスターへと変わった。
十代は目を丸くして言う。

「攻撃力3000だと!?」
「喰らうがいい!我がデーモンたちの怒りを!ジェノサイドキングデーモンよ、フェザーマンに攻撃ぃッ。炸裂!五臓六腑ぅッ!!」

自分のハラワタを蟲に変えてぶちまけ攻撃するというおぞましさ。
まさに炸裂五臓六腑という技名そのままだ。
それを見た十代はさすがに嫌そうな顔をして、回避する為に伏せカードを発動させる。

「甘いぜ!罠カード発動ぉ!『異次元トンネル−ミラーゲート』!このカードの効果は戦闘時、お互いのモンスターを入れ替えて戦闘を続行させる!よって攻撃力3000のジェノサイドキングデーモンはオレのモンスターになる!」
「アニキ!」
「上手いぞぉ!」

十代のテクニックに翔と隼人は賞賛の声を上げた。
しかしタイタンは不敵に笑い、動じていない。

「フフフ。お前が雑魚モンスターをエサに罠で迎撃する事など最初から見抜いているわぁ」
「何っ?」
「そんな小細工は私のデーモンデッキには通用しない。異次元トンネルの罠にチェーンし、ジェノサイドキングデーモンのぉ、特殊能力を発動する!」

変化したフィールドの真ん中には溶岩のようなドロドロとした液体が溜まった穴があった。
そこから1〜6の数字が記されたビリヤードで使うような色とりどりのボールが飛び出し、タイタンの顔近くで留まる。

「な・・・、何だ?」
「ジェノサイドキングデーモンの特殊能力。それは相手の効果対象になった時、サイコロを一度振り、2か5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。このデュエルでは、サイコロの代わりにこのルーレットを使用する。さぁ地獄のルーレットよ、奴の運命を乗せ、廻り始めよぉぅ」

一つのボールから炎が噴き出し、次々に別のボールへとその炎が移動していく。

「2か5が出れば罠は破壊される・・・」
「確率は3分の1・・・!」

翔と隼人が固唾を飲んで見守るその目の前で炎は止まった。

「ルーレットの目は2!よってジェノサイドキングデーモンの特殊能力発動!異次元トンネルは破壊!炸裂!五臓六腑ぅッ!!」

当たるなという願いは空しく叶わず、タイタンの攻撃は通ってしまう。
羽虫はフェザーマンの体に群がり、その身を食い散らかしていった。
これで十代のLPは2000。
凄惨なヒーローの倒され方に十代は惜しむ声を上げる。

「くぅっ、フェザーマン!だが、罠カード発動!『ヒーロー・シグナル』!」
「んぅ?」
「このカードはモンスターが破壊された時、デッキか手札からE・HEROと名の付くモンスターを特殊召喚する!いでよ、E・HEROクレイマン!守備表示だ!」

救援の信号に守備力2000のヒーローが駆けつけた。
これでクイーンの攻撃は通らない。

「いよっしゃぁぁっ!!」
「なんとか追撃をしのいだんだぞお」

どうにかこのバトルフェイズをやり過ごせた事に翔と隼人の二人は喝采する。

「くっくっく。それはどうかなぁ?」
「?」

タイタンは不穏な呟きを口に出すと、何やら金色の物体を取り出し目の前に構えた。
十代が訝しげにその物体を見つめると、突然眩い光がそこから放たれる。
いきなりの事だったので、十代や後ろの二人も直接光を見てしまい、しばらく目が見えなくなった。
かすむ視界に十代は何が起こったのかと辺りを見回す。
その時、メガネのおかげかいち早く視界が回復した翔が十代の体を見て悲鳴を上げた。

「ひ!」
「消えていくぅ。お前の体が。ライフポイントに従い、徐々に消えるぅ・・・」
「十代!?」
「アニキ!!」
「オレの体が・・・!」

十代は自分の体が部分的に消えているのに気付き、驚く。
そんな十代の状態に翔と隼人は心配して声を掛けた。

「フフフ・・・。小僧、言っただろう。既に闇のゲームは始まっているとなぁ」
「これが、闇のゲーム?」
「たち込めてきた、黒い霧が、重く黒い霧が、貴様たちを包む・・・。苦しいだろう・・・?」

地面に渦巻いていた霧が十代たちの体に纏わり付く。
ズンと体が重くなり、息を吸うのがとても苦しい。

「う、うぅぅ」
「何だぁ・・・?この息苦しさは・・・ゴホ・・・」
「これが闇のゲームのプレッシャーだ。貴様たちの足はもう動かず、誰もこのゲームから逃げる事は出来なぁい・・・」
「ホントだ・・・。足も動かない・・・っ」
「フフフ。もがけ。苦しめ。だが、その苦しみさえ懐かしいと思う時が来る。闇のゲームの敗者に待ち受けるモノは・・・永遠の闇だからなぁ」
「ケホ・・・これが本当に闇のゲームだっていう証拠はあるのか?闇のゲームをするにはあるアイテムが必要だって聞いた事あるぜ。お前はそれを・・・」

十代は一歩踏み出し、粘り付くようなタイタンの声を振り払うように質問する。
そんな十代にタイタンはこれ見よがしに手にぶら提げた物体を揺らした。

「見よ。これこそが伝説のアイテム、千年パズル。これが闇のゲームだという証」
「うわ・・・」
「あれが千年アイテム・・・?」

ウジャト眼が真ん中にある妖しげな金の三角錐。
相変わらず目に優しくない光を放ち、こちらの恐怖心を煽ってくる。
翔と隼人は紛れもない証拠に完全に怯えてしまった。

「私のターンは終了だ。さ、小僧。貴様のターンだ」

(くそっ。本当にこれが闇のゲーム・・・。よく分かんないけどめちゃくちゃヤバい気がする。けど!)

いつも体はだるいが今回はそれ以上だ。
しかもダメージを受ける度に体が消えていくというプレッシャー。
リアルに感じる命の危険は通常のディスクデュエルよりもヒシヒシと感じた。
しかし十代は思わず微笑んでしまう。

(笑ってやがる。何故だ?)

追い詰められた状況の筈なのに笑う子供にタイタンはこれまでの相手とは何かが違う事に気付く。
疑問に思うタイタンは十代をただ見つめた。

「こんなゾクゾクするデュエルは初めてだ!燃えてきたぜ!いくぞ!オレのターン!魔法カード『強欲な壺』を発動!」

十代はデッキからカードを二枚ドローし手札に加える。
そして手札から融合を発動。

「手札のE・HEROスパークマンと場のクレイマンを融合!E・HEROサンダー・ジャイアントを召喚する!」

攻撃力2400の融合モンスター、サンダー・ジャイアントが場に特殊召喚された。

「サンダー・ジャイアントの特殊能力発動!元々の攻撃力が自分より低いモンスターを破壊する事が出来る!いけェ!サンダー・ジャイアント!ヴェイパー・スパーク!!」

サンダー・ジャイアントの手から放たれた稲妻がジェノサイドキングデーモンへと向かっていく。
その光景にタイタンは余裕気に笑うと、ジェノサイドキングデーモンの力を発動し、一時停止させた。

「フフハハハ・・・」
「何!?」
「再びジェノサイドキングデーモンの特殊能力発動。廻れ!運命のルーレットよ!」
「攻撃が通る確率は3分の2!今度こそ!」

だが止まった数字は5。
またしても成功した事に十代は驚きの声を上げた。

「何だと?」
「フハハ!再び運命のルーレットは私に味方した。これで破壊されるのは、小僧!貴様のモンスターだ!」
「うぅぅぅうう・・・。くそっ。サンダー・ジャイアントが呆気なくやられるなんて」
「アニキ・・・!」
「デーモンデッキ。真の恐怖はそのカウンター能力だ。振りかかる効果を無効にするだけじゃなく、特殊能力を発動したカードを破壊する力。ルーレットの目が当たるならこんな恐ろしいデッキはない。どうするつもりだ?十代!」

隼人はこの不利な状況に気付き、畏れ慄いた。
翔も隼人の言葉に気付いて顔を青くする。
どうにかして勝たなければ、自分たち、ましてや明日香を助けられない。
しかし強力な能力をどう対処すればタイタンに勝てるのか二人には思い付かない。
頼りの十代はデュエルの衝撃に体をふらつかせている。
このままデュエルを続行できるのか?

「んぅ・・・ッ」
「さぁ、貴様の場のモンスターは全て消滅したぞ。フフフ!フハハハハハハハ!フッハッハッハッハ!!」

十代のヒーローは消滅し、ガラ空き。
絶対絶命のピンチ。
呻き声を上げる十代にタイタンは勝利を確信し、大きな高笑いをその場に響かせるのだった・・・。



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