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デュエルフィールドに着くとそこには万丈目が取巻と慕谷を従えて立っていた。
十代もフィールドに立つ。翔は側で見守ろうとフィールドの外に立った。

「よく来たなぁ、110番!」
「へへっ!デュエルと聞いちゃ、来ない理由はないぜ」
「見せてもらうぜ。クロノス教諭を破ったのがまぐれか実力か」

その言葉に十代は不思議そうな顔をしたが、早くデュエルをやりたいのか聞かなかった。

「オレさ、知りたかったんだ。デュエルアカデミアの奴らがどれくらいの実力かさ」
「ハハッ。いいか、互いのベストカードを賭けてのアンティルールだ」
「ああ、何でもきやがれ!だけどその前に・・・」

十代はそう言うと翔の所に駆け寄る。万丈目はそれを見て、呆気にとられたように口をポカンと開けた。
翔は小声で尋ねた。

「どうしたんスか、十代くん?」
「いやぁ・・・、オレよく考えたらデュエルディスクを使ってデュエルするの初めてでさ、どうやって起動したらいいのか知らねぇんだ」
「ほっ、本当っスか!?」

翔はあわてて説明する。まさかデュエリストの学校に通おうという人がディスクを使ったことが無いだなんて・・・と翔は早くもこのデュエルに対して不安を感じた。
十代はマスターできたのか、フィールドへと戻り構える。
万丈目も緩んでいた気を引き締め構えた。

「「デュエル!!」」
「まず、俺のターンだ!」

万丈目が宣言し、カードをドローする。引いたカードは罠カードの『ヘル・ポリマー』。
手札にはリボーン・ゾンビ、地獄詩人ヘルポエマー、???、『リビングデッドの呼び声』、地獄将軍ヘルジェネラル・メフィストがあった。

「リボーンゾンビを守備表示で召喚!」

守備力1600の骨と皮だけのゾンビがうめき声をあげてフィールドに出現する。

「さらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

(デュエルには引きがある以上運の要素も入る。しかし、勝負を決するのは緻密な計算に基づく作戦だ・・・)

「オベリスク・ブルーとオシリスレッド、この頭脳の差がすでに勝敗を決めているんだよ!」
「デュエルは頭の中でやるわけじゃない!熱い心でぶつかるモンだぜ。オレのターン、ドロー!」

十代は引いたカード、フェザーマンを見る。
そして手札のカードを確認すると、見たことの無いモンスターカードがあった。

(ハネクリボー?オレのヒーローデッキにこんなの入れてたっけ・・・?)

ジッと見つめるとハネクリボーがクリクリーと鳴き声を上げた。
十代はそれに驚いてカードを落としそうになる。

「カードのモンスターが鳴くなんてすげー!こんなカードがデッキに入ってるなんてオレ、ラッキーなのかも!よーし、魔法カード『融合』発動!」

面白いカードを手に入れて十代はうれしそうだ。
そんな十代を万丈目は不審そうに見る。

「E・HEROフェザーマンとバーストレディを融合して、E・HEROフレイム・ウィングマンを攻撃表示で召喚!」

2体のヒーローが1つになり、強力な力を持つヒーローへと生まれ変わった。

「よーし。マイフェイバリットカードだぜ」
「早速かかったな」
「何?」

万丈目は不敵な笑みを浮かべ説明する。

「お前の入試デュエルはすでに綿密に分析済みだ。デュエルは頭脳だ!罠カード『ヘル・ポリマー』発動!」

万丈目の伏せられていたカードが発動し、不気味な光を放つ。

「『ヘル・ポリマー』って・・・?」

翔はどんな効果を持つ罠なのかわからず首を傾げた。
その時、後ろからあきれたような声が翔に向かって語りかけられた。

「デュエリストにとって、基本的な知識よ」
「あ、明日香さん」
「相手が融合モンスターを召喚した時、自分の場のモンスターを生贄に、そのモンスターのコントロールを得ることができる」
「え・・・、それってどうゆうこと・・・?」

意味がわからなかった翔は、フィールドに目を向けた。

「リボーン・ゾンビを生贄に、フレイム・ウィングマンのコントロールを得る!」

万丈目の場にいたリボーン・ゾンビが生贄に捧げられたことにより、フレイム・ウィングマンが万丈目の場に降り立った。万丈目のモンスターとなった自分のヒーローの姿に十代は驚きの声を上げる。
その姿は十代の場にいた時と変わって、幾分邪悪なオーラを纏っていた。

「モンスターが盗られちゃった!?」

その状況を見てやっとわかったのか、翔は目を見開き叫んだ。

「クロノス教諭との戦いでのとどめが、融合モンスターだと知って、その罠をはっていたのさ。そんなことも知らずに、まんまと罠に入り込んで来るとはなぁ。所詮オシリス・レッドだ」

万丈目のバカにしたように笑うその顔を無視し、十代はこのピンチを逆転するために考える。

(融合召喚は特殊召喚だから、まだこのターン、オレは通常召喚を行うことができる・・・。だが、フレイム・ウィングマンを超える攻撃力、守備力を持つモンスターはオレの手札にはない。守備モンスターでしのぐか。・・・それにしてもこの展開、ちょーワクワクしてきたぜ!)

万丈目は十代が実は楽しんでるとは思わず、優越感に浸っていた。

(フレイム・ウィングマンは破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えるモンスター。どのみち次のターン、無傷ではいられない!)

十代は守備力2000のE・HEROクレイマンを守備表示で召喚するとターンエンドした。
万丈目のターンに代わる。

「カード、ドロー!」

万丈目は引いたばかりのそのカード、地獄戦士ヘルソルジャーを攻撃表示で召喚する。攻撃力は1200だ。

「いけ!フレイム・ウィングマン!フレイムシュート!」

フレイム・ウィングマンが邪悪な炎を纏って、クレイマンに体当たりする。
クレイマンの体が砕け散り、十代は顔をしかめた。

「フレイム・ウィングマンのモンスター効果により、破壊した相手モンスターの攻撃力のダメージを相手にプレイヤーに与える」

フレイム・ウィングマンの炎が十代の全身を包む。
十代は叫び声を上げ、翔はその声に青ざめた。

「お前の場にはお前を守るモンスターは1体もいない!地獄戦士ヘルソルジャー、ヘルアタック!」

剣で直接切られた十代は苦しそうに顔をゆがめ、ひざをついた。十代の残りライフは2000になった。

「融合モンスターを封じられてもう打つ手無しだなぁ。スモールタウンではどうだったか知らないが、お前はデュエルアカデミアでやっていけるレベルではない!思い知ったか!俺は場にカードを伏せて、ターンエンドだ!さあ、お前の番だ!」

ひざをつきながら十代は、これ以上続けたら命に関わるだろうと思った。
身体が焼きゴテを当てたように痛く、呼吸するのも苦しかった。
しかしこのデュエルは楽しく、その痛みを我慢してでも十代はやりたかった。
十代は痛みを押し殺して立ち上がり、ニッと笑う。

「感動だぜ・・・!」
「何!?」
「デュエルアカデミアは楽しいなぁ。お前みたいなのがゴロゴロしてんだろ?楽しみだぜ」
「何だと!?」

十代はカードを引き、新たなヒーロー、E・HEROスパークマンを攻撃表示で召喚する。攻撃力は1600だ。

「いけぇ!スパークマン!スパークフラッシュ!」

スパークマンの指先から電流が溢れ、地獄戦士ヘルソルジャーの上に雷となって落ちた。
その衝撃で地獄戦士ヘルソルジャーの剣が吹っ飛ぶ。
万丈目のライフから差分の400が引かれた。

「モンスター効果発動だ!地獄戦士ヘルソルジャーは破壊された時にプレイヤーが受けたダメージを相手プレイヤーにも与える効果があるのだ!」

吹っ飛んでいた地獄戦士ヘルソルジャーの剣が空中で止まり、十代に向かって落ちる。剣に貫かれ、十代は倒れこんだ。
ライフが1600になる。

「十代くん!」

翔は悲鳴を上げる。

「あの子、最初に会った時と全然雰囲気が違うわね。ダメージを受けても無表情でデュエルをしそうな感じだったのに。本当に同じ人?」
「同じだけど同じじゃないよ!明日香さんが最初に会ったのは覇王で、今デュエルをやっているのは十代くんなんだ!」
「ど、どういう意味?」
「今説明してる暇は無いっス!十代くん、身体が弱いからデュエルの衝撃に耐え切れてないんだ!早くこのデュエルをやめさせないと!」

翔はやめさせようと一歩前に出る。
だが、それを止めるように明日香が翔の肩に手を置いた。そして十代を指差す。
翔はハッと気付いた。十代が苦し気に息を吐きながらも、とても楽しそうにデュエルしていることに。

「今止めたとしても、きっとあの子やめないわ」
「うん・・・。十代くん、すごく楽しんでる。とっても苦しそうなのに・・・」

十代はよろけながらも立ち上がり、カードを1枚セットしてターンを終了した。
その後姿を翔は食い入るように見つめた。

「次の攻撃で俺の勝ちは決まりだ。カード、ドロー!」

万丈目はフレイム・ウィングマンでスパークマンを攻撃する宣言をする。
その瞬間、十代は伏せていた罠カードを発動した。

「罠カード『異次元トンネル−ミラーゲート−』発動!」
「何!?」

万丈目はクワッと目を大きくした。

「『ミラーゲート』!?」
「モンスター同士の戦闘時に発動できる・・・!相手の攻撃モンスターと対象となった自分のモンスターを入れ替えて戦闘させる!」

翔と明日香が驚いたようにそのカードを見る。
場所が入れ替わり、フレイム・ウィングマンは万丈目の場にいるスパークマンを攻撃した。
スパークマンはその攻撃により破壊され、万丈目のライフが3100となる。

「さらにフレイム・ウィングマンのモンスター効果で、破壊された相手モンスターの攻撃力分のダメージを、相手に与える!」
「ウワァァァアアアアッ!!」

炎が万丈目を焼き、ライフをごっそり削る。万丈目のLPは残り1500となった。
その快挙に翔は歓声を上げる。十代はそれにピースで応えた。

「このォ、調子に乗るな!オシリス・レッドのドロップアウトめ!手札から魔法カード『ヘル・ブラスト』を発動!自分のコントロールするモンスターが破壊されたターンに、フィールド上のモンスターを1体破壊、攻撃力の半分のダメージを与える!」
「うぅッ!フレイム・ウィングマン・・・!」

フレイム・ウィングマンが破壊され、十代のLPが550となる。
倒れこみそうになるのを、十代は足を踏ん張って耐えた。

「さらに罠カード『リビングデッドの呼び声』発動!このカードは自分の墓地からモンスターカード1体を選び、攻撃表示で特殊召喚する!地獄戦士ヘルソルジャーを特殊召喚!そして地獄戦士ヘルソルジャーを生贄にして、地獄将軍ヘルジェネラル・メフィストを召喚!」

攻撃力は1800だ。
上級モンスターの召喚を決め、万丈目は得意げに笑う。

「どう転んでも、俺の勝ちは決まったようだな。アンティルールによりお前のベストカードをもらうぜ!」
「フッ。それはどうかな?」
「何?」

十代の笑みに、万丈目は訝しげな顔をする。だがすぐに自分の優位性を思い出したのか、十代をバカにしたように笑った。

「ふん。デュエルは99%の知性が勝敗を決する。運が働くのはたった1%にすぎない」

十代はその言葉を無視し、手札のハネクリボーを見つめた。
本当ならもう気を失ってもおかしくないのに、まだ戦えているのはこのカードのおかげのような気がした。
一緒に戦っているうちに、ハネクリボーのことをまるで相棒のようにかけがえの無い存在だと思うようになった。
クリクリーと鳴くハネクリボーに心の中で応える。

(ああ。わかってる、相棒)

それに応え、ハネクリボーはウインクした。

「その1%にオレは賭ける。オレの引きは奇跡を呼ぶぜ!オレのターン!ドロー!」

引いたカードを覗き、十代は満面の笑みになった。
そして十代がそのカードを発動しようとした瞬間、ガードマンの足音に気付いた明日香が大きな声を上げた。

「ガードマンが来るわ!アンティルールは校則で禁止されているし、時間外に施設を使ってるし、校則違反で退学かもよ!」
「えぇ!?」
「そんな校則あるのかよ!?」

十代と翔の驚愕したような叫びに、明日香はあきれたように自分のPDAを出して見せる。

「あなた生徒手帳を読まないの?」

万丈目は明日香がいることに気付き、ほほを染めていた。

(明日香さんが俺のデュエルを見ていてくれたのか・・・)

「万丈目さんヤバいっすよ!!」

取巻の発言に万丈目は表情を改め、ディスクを停止した。
フィールドにいたモンスターたちが消え、十代はハッと驚く。

「今夜はここまでだ。俺の勝ちは預けておいてやる」
「まだ勝負は終わっちゃいないぜ!?」
「もう充分さ。お前の実力は見せてもらった。入学テストはまぐれだったようだな。もっとクールなスタイルだと思っていたが・・・、とんだ見当違いだった」
「何言ってるか全然わかんねぇぞ!ふざけんな!」

フィールドから出て行く万丈目を追いかけようと十代は足を踏み出すが、身体が言うことを利かず、崩れるように尻餅をついた。

「十代くん!」

翔はフィールドによじ登り、十代を助け起こす。

「大丈夫?肩を貸すから、早くここから出よう!」
「さぁ、こっちよ!」
「うぅぅぅ、嫌だ!オレはここを動かないぃぃぃぃ!」

見つかっちゃうよと翔が言っても十代は首を振る。
翔と明日香は顔を見合わせ、仕方ないと言いたげに十代を引きずってその場を立ち去った。




アカデミアの外に出ると明日香はあきれたように、翔の肩に体を預けた十代の顔を覗き込んだ。
「まったく、世話の焼ける人ね。身体が弱いらしいのに、あんな無茶をして」
「ちぇ・・・。余計なことを」
「ありがとう、明日香さん」
「どう?オベリスク・ブルーの洗礼を受けた感想は」
「まあまあかな。もう少しやるかと思ってたけどね」

立つこともままならない十代のその言葉に明日香は苦笑する。

「そうかしら?邪魔が入っていなければ、今頃アンティルールで大事なカードを失うところじゃなかったの?」
「いや、今のデュエル、オレの勝ちだぜ」

そう言うと十代は、まだ持っていた手札のカードを明日香と翔に見せた。
そのカードは墓地からモンスターを特殊召喚できる『死者蘇生』だった。
明日香と翔はその十代の強い引きの力に目を丸くする。
これでフレイム・ウィングマンを召喚し、攻撃力1800の地獄将軍ヘルジェネラル・メフィストを破壊すれば、万丈目のLPは0だったのだ。
翔はそれがわかり、感動に打ち震えた。

「すごい・・・。すごい!身体が弱いのに十代くん、こんなすごいデュエルができるなんて!十代くんのこと、これからアニキって呼ばせて!」
「ア、アニキ?デュエリストに上下はないぜ。ただのライバルさ」
「でもボクはとてもキミには及ばないよ!とにかく、これからアニキって呼ぶから!」

鼻息も荒くそう宣言する翔に、十代はタジタジだ。
その2人を見て、明日香は笑った。

「あなたの事情、今度聞かせてもらうわ。今日はゆっくり休みなさい」

翔はそれに頷き、十代を支え直してレッド寮に向かって歩く。
その後姿を見て明日香はまた思った。

(遊城十代・・・。あの子、面白いかも)



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