ただただ愛おしいがために泣いた。子供の頃はそれで許された。手放したくないからとしがみつけば優しい大きな手が、頭を撫でる
王女様は不自由な生活を強いられていたが、今まで生きてきたのがそういった環境であったわけだし、特別不便なことも不満なこともなかった。ただ、生き辛いと思うことは少々ある。周りからの姫として受けるプレッシャーや、好き勝手できないのは王女様の身にこたえていた
そこに男が来た。
周りが愛想笑いも出来ないような自分に呆れ果て、それでも気持ちのこもっていない笑みを貼り付ける。それが王女様からしてみれば普通であったが、男は違った。
愛想笑いなんてしなかった。素直に困ったように眉を下げて、人差し指で頬を掻く仕草をする。そしてその傷だらけの手で王女様の頭を撫でた
“何をしたらいいか、わからないんだな”
的を得た言葉。次第に男は王女様のお守りを任されるようになり、顔を合わせることも多くなった。楽しかったが、同時に醜い感情が生まれていることに気づいた
誰にもとられたくないと思った。
せっかく自分を可愛いと愛でてくれる人間が現れたのに、手放したくはないと思ったのだ
それがたとえ離れ離れになってしまったとしてもその思いは消えずに、むしろ強くなる一方だった。姫だった子供は王女様になり、男を抱きしめる
傷だらけだ
自分を守るべく傷ついた男を撫でた。
血まみれで、それでも剣だけは手放さなかった男の頭を膝にのせ、王女様は笑みを浮かべる
“これが悲しながら、俺の運命ってやつだったのか”
失敗した。一人の子供に愛を注いだがために、男は不自由になった
それはもう後悔し、涙を流す。可愛いと愛でた子供がまさかこうなるとは思わなかったのだ。血まみれの男の頬に白い手を滑らせ、動けないことをいいことに唇を重ねる王女は、そんな男を見て満足した
好きなんです。貴方が。腕がなくなっても、片目が抉れようとも、ボロボロの傷だらけだったとしても、その男以外王女様は愛せる自信がなかった
閉鎖された空間で過ごしている少女に、若い男が楽しさや嬉しさを教えてやれば、少なくともこうなることは、予想できていたのかもしれない。こんな酷い末路じゃなくとも、少女が男を好きになるのにおかしなところなど何一つなかった
後悔先に立たず
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